ムービービーム3
28日後...下手な倫理観などなく、ゲーム性に富み、面白かった。キリアン・マーフィーをはじめ役者たちの達者な演技、ストーリー展開の無駄のなさ、凝るべきところに凝り、省くべきところを省く、そういった持ち駒を効率的に動かして最大の効果を得ることに成功している点で、地理的・国民性的に近しい日本が手本にすべき英国映画だと思う。いちばん引き込まれたのは、瀕死の状態から目覚め、病人から非感染者仲間を得て徐々に健康体へ、モンスターと化した感染者から逃れ戦ううちに生気がみなぎり、最後には狂気すら感じさせる、主人公ジムの変わりざま。ジムを繊細な感覚で演じるキリアン・マーフィーは魅力的で、それはナオミ・ハリス(セリーナ)、ブレンダン・グリーソン(フランク)、ミーガン・バーンズ(ハナ、ハンナ?)、クリストファー・エクルストン(ヘンリー少佐)にも言えること。無人のロンドンをひとりでさまようジムの孤独と不安を引いた絵であらわしたり、スーパーで食料を買いだめ(タダだけど~笑)するシーンでは主人公たちを楽しませ一時の安堵感を強く印象づけ、鳥を介して仲間が感染するシーンの見事なカメラワークとか、演出にキレがある。敵と味方の境目がクッキリしてるから、味方であるときの関係が安定していて、サバイバル映画でありながら落ち着いて観ることができた。その点は逆に『遊星からの物体X』のような「誰が敵か分からん感」にしびれる人には物足りないかもしれない。おすすめ度★★★★☆
28週後...『28日後...』の続編。前作ではひとりの青年が仲間を得ながらゾンビたちから逃避するサバイバル映画だった。本作は『フル・モンティ』のロバート・カーライルが父親の一家を中心に物語は展開する。この映画シリーズの勝因は何をさておき、たった一滴の血液・唾液で感染したら最後、20秒で発症し、凶暴なゾンビへと変貌する「RAGE(レイジ)ウィルス」の存在だろう。え? どつき漫才をしたくなる? それは「正司敏江・玲児ウィルス」や! カーライルをはじめ、母親(キャサリン・マコーマック)、タミーとアンディの姉弟、子ども2人を守る女性軍医(ローズ・バーン)、狙撃手ドイルなど個性が際立つ俳優を起用したキャスティングも成功の要因。一番の見どころはロンドンの安全地区を管理する米軍への皮肉だろう。ひとたび危険因子が猛威を振るうと、無差別虐殺に走る傲慢さへの批判。それでも一掃できないと、『アウトブレイク』や『クローバーフィールド』でもあったが、街ごと一網打尽にしてしまう、非人道的な作戦へのアイロニー。そんなアンチ・パワーゲームにカーライル一家の事の次第が無常な人間的側面の厚みを加える。ゾンビから人間が逃げ惑うサバイバルシーンもたっぷり。前作でも思ったが同じ島国の大都市が舞台で日本映画が手本にしてほしいパニック・サスペンスの佳作。映像だけで見せる戦慄のラストシーンのアイデアも見事。★★★☆☆
The FEAST/ザ・フィーストテキサスのうらぶれたバーにショットガンを持った血まみれの男が駆け込んでくる。得体の知れない化け物に襲われ、そいつらがやってくるからバーを閉めろと叫ぶ。そこからバーにいる人間たちと観る者とは未知のモンスター群との生死を懸けたバトルアクションに引きずり込まれる・・・。実に楽しいB級ホラーだ。「のっぺらぼう」みたいに自分が見た衝撃を人に話したくて仕方がなくなる。1度観ただけで筋書きも登場人物も全部、頭にインプットされ、いくらでも言葉で再現できる。それはホラー映画の(これから死語を使うのでエンガチョを忘れずに・・・)「予定調和」を次々と崩していくことに精力のほとんどが費やされた作品だからだ。思いがけないことがスパン!スパパパパン!と連続して決まっていくと快感になる。この映画はまさにその典型的な成功例なのだ。ストーリーは幼なじみで『グッド・ウィル・ハンティング』など脚本仲間のマット・デイモンとベン・アフレックが行なった脚本コンテストでグランプリに輝いたもの。テレビゲームみたいに登場人物をコケにしたプロフィールが出る安っぽいアイデア(そのプロフは事態を好転させるとレベルアップする!)といい、恐怖というツッコミに笑える会話やウラをかいた展開のボケで返すユーモアといい、遊び心満点の脚本には拍手喝采である。登場人物をひとりずつ紹介したいぐらいなのだが、しょぼい子持ちのウェイトレスからスーパーヒロインへと華麗なる変身を遂げるタフィー役クリスタ・アレンの格好よさにはゾクゾクした。おしゃべりな親友がこの映画を観ると聞きつけたときは携帯の電源を切って寝るべし。★★★★★
犯人に告ぐ神奈川県警の警視・巻島が、捜査官がTVを通して犯人を挑発し、行き詰まった捜査を打破しようとする「劇場型捜査」を描いた同名ベストセラー小説の映画化。警察内部の軋轢、白熱するメディアの報道合戦、被害者家族の苦悩などがふんだんに盛り込まれた骨太のサスペンスドラマだ。トヨエツは外見から入る俳優だ。今回も刑事には似つかわしくないロン毛とヒゲを自分から監督に提案したそうだ。そして声。甘いミドルヴォイスが持ち味だが、この映画では低くドスの効いた声を意識的に出している。テレビカメラに向かって犯人に語りかけるときは、とくに。それがどれも功を奏している。巻島史彦がどんな人間か外見から想像がつくし、何よりカッコイイ。この映画は『男たちのかいた絵』と並んでトヨエツの代表作になるだろう。石橋凌、小澤征悦、笹野高史ら男優陣は適役で、保身、出世、忠誠など警察内部に渦巻く人間の清と濁をよく体現していると思う。笹野高史は『武士の一分』(2006年)に出演以降、2007年・2008年で15本の映画に出ている。 超売れっ子だ。この映画でも巻島を精神的に支え、事件解明にも大きく関与するベテラン巡査を味のある佇まいでこなしている。女優では片岡礼子が焦りや打算を抱えたライバルTV局のキャスターをリアリティをもって演じている。彼女はうまい。もっと大きな役を与えられて然るべきだ。それに比べ巻島が出演する番組のキャスター役、崔洋一と井川遥はミスキャストとしか思えない。なぜ久米宏と麻木久仁子にオファーしなかったんだろう。警察側の内部は丹念に描かれているのに、犯人側の描写がまったく薄っぺらで残念だ。そこさえ念入りに撮られていたら、刑事ものの映画として傑作になり得た作品なのに。惜しい。★★★★☆
ベオウルフ 呪われし勇者英国文学の『指輪物語』にも影響を与えたという歴史上最古の英雄叙事詩をロバート・ゼメキス監督が映画化。アンソニー・ホプキンス、アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチというクレジットを見てわくわくするなと言うほうが無理だろう。このキャスティングに惹かれて観たのに完全に裏切られた。人物がアップになったとき、なーんかノッペリしているのだ。全体のトーンもなーんかCGぽい。見終わって調べたら「パフォーマンス・キャプチャー」という技術を用いて映像化した全編CGアニメーション映画だった。俺はCGアニメが苦手なのだ。『トイ・ストーリー』は10分で観るのをやめた。しかし、『ベオウルフ』はアンジェリーナ・ジョリー観たさに最後まで観てしまった。なにせアニメだからグレンデルやドラゴンといった怪物の動きやアングルが自由自在なのだ。人間の体だって水増し、し放題。ベオウルフ役のレイ・ウィンストンはシュワちゃん並みに筋骨隆々だし、アンジェリーナの肉体美だって1.5倍増しなのだが、その魅力は逆に7掛けっていう感じだ。この物語、怪物の母親役アンジェリーナ・ジョリーとベオウルフら歴代勇者の、長きにわたるエロティックな関係のループ構造が筋書きの軸になっている。しかし、やはり生身の人間が演じてこその叙事詩だろう。アニメだと、どうしても安っぽく映ってしまう。なにより、アンソニー・ホプキンスやジョン・マルコビッチのそれぞれの役が、彼らである必要があるのだろうか。怪物たちとベオウルフの対決シーンの迫力には眼を見張った。パフォーマンス・キャプチャーは、グレンデルのような異端キャラ、異形キャラを描くとき、最大限の効果を発揮すると感じた。CGゲーム世代向けのファンタジーだと思う。★★★☆☆
by kzofigo | 2008-10-19 12:32 | ムービービーム























