さよなら、おばちゃん

慢性心不全で入院していた伯母が亡くなった。90歳だった。病院から式場に運ばれて来たおばちゃんと2人きりになる時間がしばらくあった。僕は、ひょっとすると目を開けて「あら、Kちゃん」って言うんじゃないかと、ずっとおばちゃんの顔を眺めていた。すっごく安らかな寝顔だった。




幼稚園か小学校の低学年のころ、直島のヘキにある精錬所の社宅に行ったのを覚えている。まだ、おっちゃんも元気だった。質素だけれど幸せそうな光景が浮かんでくる。

おっちゃんと僕のオヤジは共同出資して倉敷に家を建てて二世帯で暮らす予定だった。おっちゃんとおばちゃんには僕と同い年の従妹（いとこ）がいた。従妹と僕が小3のとき、おっちゃんは心筋梗塞で旅立ってしまった。おばちゃんは住み込みで家政婦の仕事をしながら従妹を育てた。僕のオヤジが従妹の父親代わりで、従妹と僕は兄妹同然に育てられた。

おばちゃんが働いていた家には僕よりひと回り下ぐらいのやんちゃな男の子がいた。親は仕事で忙しかったから、やんちゃ坊主はおばちゃんになついていた。中学になって手が付けられないようなワルになっても、おばちゃんの叱責だけは素直に聞いていたような気がする。40近くになったかつてのワルが、葬式で人目をはばからずに号泣してたよ、おばちゃん。


おばちゃんはロナウジーニョに似ていた。海外のサッカー選手などまったく知らないオヤジもロナウジーニョだけはすぐに覚えた。

従妹は結婚して男の子を2人生んだ。2人とも就学前に筋ジストロフィーを発症した。それ以来、従妹は前例主義の教育制度と闘うことになった。従妹はひるまなかった。車椅子の息子2人を一般クラスで小学校を卒業させた。それが前例になって、2人が卒業した小学校は、その後も車椅子の生徒を普通に受け入れるようになった。

成長した息子2人は、電動車椅子サッカーと出合って、変わった。何事も前向きに考え、積極的に取り組むようになった。彼らが頑張る姿は周りの人間に勇気を与えるようになった。その間、従妹と2人の男の子を、おばちゃんは温かく見守っていた。

僕はおばちゃんの弱さをあまり見たことがない。70代で胃ガンになり胃を全摘したときも気丈に見えた。でも、本当は、おっちゃんが亡くなってから、辛いことの連続じゃなかったん？　もう無理することはないからね。おっちゃんと会えたんかなあ。2人で、どっかから、みんなを見守ってな。

僕はおばちゃんの作る「ばら寿司」が大好きだった。
もう1回あの寿司が食べたいよー、おばちゃん！


　　おーーーーーーい!