4/18 水谷豊「私」

Eテレ『SWITCHインタビュー　達人達』
（毎週土曜　午後10時～11時／再放送：毎週水曜深夜　午前０時～１時）

小曽根真と水谷豊の即興セッションが素晴らしかった。

とくに水谷豊自作の詩とその朗読の巧さに感銘を受けた。




「私」　　　　水谷豊

私は何処から来たのだろう…
ここは何処だろう。
まるで生まれたばかりの様に
私はまだ私を知らないのだろうか？
いや
ここに立っているのは確かに私に違いない。
ヒューッと風が耳を掠めてゆくのだから
ヒャラヒャラと木の葉達が騒いでいるのが
見えるのだから。
川の水を手に掬い、
顔に押しあてた
雫が足許の石に模様をつくる
ホラ確かに私に違いない。
木漏れ日が幾筋も私を刺している様で
嬉しくなる
川のせせらぎに　風に、
鳥達の鳴き声も加わって
大合唱が始まる
リズムをとりながら嬉しくて深呼吸をした。
飛び跳ねたい衝動に駆られる…と…
その瞬間だった
墨汁を撒き散らした様に
川面から顔を出す魚達を隠す様に
辺りが暗くなる。
まるで蜘蛛の巣にかかった獲物の様に
黒い大きな雲が太陽を捉えている。
突然　ゴロゴロゴロっと雷が私を急き立てる様に
暴れ出した。
気が付くと私は　私の手で　私の耳を塞ぎながら
走っていた。
いつもの事だ
慣れているさ。
息が続く限り走り続けよう
ゼーゼーと呼吸が荒くなり
足が絡まり始めると
ついに体を投げ出す様に草むらに
倒れこんだ。
心臓が破れそうに激しく鳴っている。
雨と汗で濡れた体が乾くまで
目をとじたままじっとしていよう。
やがて予定されていたかの様に
ぼんやりと微かな声が聞こえてくる。
私は何処から来たのだろう…
遠ざかる記憶の中で
私はいつも
そんな私を
小さく笑ってしまうのである。




▼番組フル　即興セッションは29：30～
https://www.youtube.com/watch?v=X2cN1YWAgHc