10/31 音楽選歌~東京
もう20年近く前の話。岡山市内の繁華街にあるイタリアンレストランで最愛の女性とランチを楽しんでいた。店内にエリック・クラプトンの『ティアーズ・イン・ヘブン』が流れた。この曲にまつわる悲話を女性に話そうとした。しかし、僕は何も喋っていないのに、クラプトンがこの曲を書くきっかけになった悲しい出来事を、女性は知ることになる。
隣のテーブルにいた二人連れのOL。そのひとりが、僕よりも先に、もうひとりに話し始めたからだ。『ティアーズ・イン・ ヘブン』が、ニューヨークのアパートの窓から落下した、4歳半になるクラプトンのひとり息子、コナー君の死に際して捧げられたことを。そのOLにロマネ・ コンティでもおごりたい気分だったが、あいにく僕には持ち合わせがなかった。
さらに話はさかのぼって30年以上前の大阪。フリーライターのアシスタントだった僕は決断を迫られていた。ボスと僕が机を置いて働いているデザイン事務所。一緒にその社員になるかどうかでだ。ボスはもう厄介になることを決めていた。自分の進退について、あれほど悩んだことはない。苦渋のすえ、僕が出した結論は「東京」だった。
行きつけの喫茶店。カウンター席でコーヒーをすするボスとアシスタント。ボスはアシスタントの気持ちに感づいていた。ただ彼の口からはっきりと答えを聞きたかったのだ。心の中で「東京に行きます」とつぶやき、それを言葉にしようとした、まさにその瞬間だった。有線の曲が「マイペース」の歌う『東京』に変わった。
最終電車で君にさよなら・・・東京へはもう何度も行きましたね
喫茶店のカウンター席。冷めたコーヒーを前に黙りこくる男が二人。
最後は、数年前、岡山市の国道2号線と30号線が立体交差する大きな十字路にオープンした、大型書店に友人と行ったときのこと。書棚のゆったりとしたレイアウトといい、書籍の豊富な品ぞろえといい、「これで駐車代を気にせず、ゆっくり本を選べるぞ」と思わせる店構えに、友人も僕もすこぶる満足。
腰を据えて、めざす本探しに入ろうとしたときだ。店内に流れだしたメロディを聞いて、二人とも反射的に「あ、閉店か。家に帰らなきゃ」と思ってしまった。まだ夕方だというのに。店のBGMは有線で、ポピュラーなクラシック曲がランダムに流れるチャンネルに合わされているようだった。
そのとき流れてきた曲は『蛍の光』ではない。正式に言うと、交響曲第9番ホ短調・第2楽章・第1主題。そう、僕らを小学生に連れ戻してくれる、あの曲です。
イシュトヴァン・ケルテス指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
※第1主題も好きだけど、僕は第2主題を弦楽器が奏でる哀感に溢れたパートが好き
隣のテーブルにいた二人連れのOL。そのひとりが、僕よりも先に、もうひとりに話し始めたからだ。『ティアーズ・イン・ ヘブン』が、ニューヨークのアパートの窓から落下した、4歳半になるクラプトンのひとり息子、コナー君の死に際して捧げられたことを。そのOLにロマネ・ コンティでもおごりたい気分だったが、あいにく僕には持ち合わせがなかった。
さらに話はさかのぼって30年以上前の大阪。フリーライターのアシスタントだった僕は決断を迫られていた。ボスと僕が机を置いて働いているデザイン事務所。一緒にその社員になるかどうかでだ。ボスはもう厄介になることを決めていた。自分の進退について、あれほど悩んだことはない。苦渋のすえ、僕が出した結論は「東京」だった。
行きつけの喫茶店。カウンター席でコーヒーをすするボスとアシスタント。ボスはアシスタントの気持ちに感づいていた。ただ彼の口からはっきりと答えを聞きたかったのだ。心の中で「東京に行きます」とつぶやき、それを言葉にしようとした、まさにその瞬間だった。有線の曲が「マイペース」の歌う『東京』に変わった。
最終電車で君にさよなら・・・東京へはもう何度も行きましたね
喫茶店のカウンター席。冷めたコーヒーを前に黙りこくる男が二人。
最後は、数年前、岡山市の国道2号線と30号線が立体交差する大きな十字路にオープンした、大型書店に友人と行ったときのこと。書棚のゆったりとしたレイアウトといい、書籍の豊富な品ぞろえといい、「これで駐車代を気にせず、ゆっくり本を選べるぞ」と思わせる店構えに、友人も僕もすこぶる満足。
腰を据えて、めざす本探しに入ろうとしたときだ。店内に流れだしたメロディを聞いて、二人とも反射的に「あ、閉店か。家に帰らなきゃ」と思ってしまった。まだ夕方だというのに。店のBGMは有線で、ポピュラーなクラシック曲がランダムに流れるチャンネルに合わされているようだった。
そのとき流れてきた曲は『蛍の光』ではない。正式に言うと、交響曲第9番ホ短調・第2楽章・第1主題。そう、僕らを小学生に連れ戻してくれる、あの曲です。
イシュトヴァン・ケルテス指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
※第1主題も好きだけど、僕は第2主題を弦楽器が奏でる哀感に溢れたパートが好き
by kzofigo | 2014-10-31 23:33 | ミュージック・ブック