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1/27 Stevie, Wonderful ~2~

●10.「Ordinary Pain」PARTⅠのBackground VocalにMinnie Ripertonのクレジットがある。

◎Stevie WonderとMinnie Riperton

 Minnieの5オクターブというパワーあふれる声を余すところなく生かしたアルバム『パーフェクト・エンジェル』からシングルカットされ1975年4月5日に全米ナンバーワンに輝いた「Lovin'You」はStevieのプロデュースによるもの。
 4年後、StevieはMinnieが入院している病院へ見舞いに行った。「私の待っていた最後の人が来た。これでみんなうまくいくでしょう」とMinnieはStevieに言った。翌日の1979年7月12日、Minnieはガンでこの世を去った。31歳の若さだった。
 シカゴでプロとして音楽活動を続け、一時フロリダに移り子育てに励んでいたMinnieは、1973年にStevie Wonderと歌いたくなり、彼のバックボーカルグループ、ワンダーラヴに加入した。彼女はStevieのツアーに同行し、アルバム『ファースト・フィナーレ』でも歌っている。1974年、エピックレコードと契約し、Stevieのプロデュースでリリースしたアルバムが『パーフェクト・エンジェル』だ。
 1976年、Minnieは自分がガンであることを知った。同年、乳房を切除し、アメリカ癌協会のスポークス・パーソンとなった。1977年、協会はMinnieに努力賞を与え、会長のジミー・カーターがホワイトハウスでの式で授与した。彼女は病気の治療を続けながらミュージシャンとしても活発に活動した。1978年にエピックからキャピトルに移り、このレーベルでの1枚目のアルバム『ミニーに出会ったら』のレコーディング中にリンパ癌であることがわかった。『ミニーに出会ったら』は1979年2月に完成した。
 彼女の死後、キャピトルはアルバム『愛・生命・永遠』を出した。このアルバムには、ジョージ・ベンソン、マイケル・ジャクソン、ロバータ・フラック、そしてStevie Wonderほか、彼女を愛する多くの友人が参加している。


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◎DISCⅡ

●1.「Loves In Need Of Love Today」

 冒頭のヴォーカルハーモニーがアルバムのトップを飾るにしては穏やか過ぎる。長い間そう思っていたけど、スティーヴィーは「つつみこむように」このアルバムを届けようとした、その表われだといまなら思える。私も歳を取ったのだ。
 このあと、アルバムの中で何度も出て来るコーラスとの掛け合い。細かく聴いていくと、実によく練られたあとがうかがえる。でも、フツーに聴いているぶんには、そんな工夫を微塵も感じさせない。そのへんに天才の仕業を感じるのだ。
 つつみこむような曲調ではあるけれど、歌われている内容は切実だ。「みんなに伝えるべきシリアスなニュースがある。憎しみが蔓延して多くの胸を痛めている。今日、愛が愛を必要としている」。人生の要所における歌どもの第一声に、スティーヴィーは「愛が愛を必要としている」という警告にも近いメッセージを込めたかったのだろう。スティーヴィーも若かったのだ。

●2.「Have A Talk With God」

 スティーヴィーは1人で幾つもの楽器を演奏して1曲を作り上げることが多い。この曲で言えばヴォーカル、コーラス、キーボード、ベース、ドラムス、パーカッション、ハーモニカを1人でこなしている。特徴的なのは、リズムが微妙に揺れることと、ミキシングが大雑把なことだろう。
 たとえばクラビネットとドラムス。音が大き過ぎて全体のバランスを欠いている。しかし、スティーヴィーにとって、ミキシングは自分が出した音を調合する作業なのだから、誰に気兼ねするわけでもないし、お構いなしなのだろう。でも、そのアバウトでアンバランスなところこそが、スティーヴィー独自のグルーブを生み出しているのだし、誰にも真似できない大きな魅力なのだ。
 「人生が辛すぎると感じる時には 神のもとへ話しに行くといい」・・・まるで天国のスポークスマンのような詞と、曲全体のゆったりとしたグルーブ感で、1.と3.をつなぐブリッジ的な役割を果たしている。「彼こそが世界に名の知れた唯一の無料精神分析医」~このキャッチフレーズのような歌詞は、笑ってしまった。

●3.「Village Ghetto Land」

 シンセサイザーによる弦楽四重奏のアレンジが非常にユニークだ。第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの構成をきちんと意識している。公式ライナーノーツによると、この曲はビートルズを意識して作ったそうだ。そう言われてみれば、アレンジからも詞の面でも、スティーヴィー版「Eleanor Rigby」と言って差し支えないようだ。
 作詞の依頼を受けたGary Byrdは、書き上げるのに3ヵ月を要したそうだが、時間をかけた(時間がかかった?)だけあって、荒廃したghettoの光景が、ありありと目に浮かぶようなシズル感のある言葉によって、この上なくリアルに表現されている。
 ここまでのオープニング3曲は組曲といった趣がある。タイトルを付けるとしたら、カーペンターズの『Now and Then』に対抗して、組曲『Now and Now』といったところだろうか。

●4.「Contusion」

 それまでの3曲とは趣を異にしたインストナンバー。リードギターは83年に映画『フラッシュダンス』の「マニアック」で全米ナンバーワンヒットを放ったマイケル・センベロ。彼はこのアルバムの多くの曲でリードギターを担っている。
 公式ライナーノーツによると、この曲はチック・コリア率いるリターン・トゥ・フォーエバーやジョン・マクラフリンを中心としたマハヴィシュヌ・オーケストラと比較されたりするそうだ。前衛的な曲調は確かに70年代にジャズメンがエレクトリックな編成のコンボで活動した「クロスオーバー」に属するものだろう。
 この曲は1.~3.と4.以降を繋ぐ意味で『展覧会の絵』における「プロムナード」のような印象を抱かせる。

●5.「Sir Duke」

 ジャズ界の公爵デューク・エリントンに捧げられたこの曲については多くを語る必要はないだろう。ホーンセクションのアレンジがゴキゲンな、私にとっては“ダンスナンバー”。というのも、クラブで踊り疲れてソファでぐったりしてても、この曲がかかるとフロアへ飛び出して行ったから。アルバムからのセカンドシングルで1977年5月21日に全米ナンバーワンに輝いている。
 これは音楽が持つ根源的な魅力に対する礼賛。「音楽は知ってるんだ それが生活に切っても切れないものだと」というメッセージはザ・ブルーハーツの「パンク・ロック」で歌われる「僕 パンク・ロックだ好きだ 中途ハンパな気持ちじゃなくて」と同義だと思うのだけれど、どうでしょう?
 スティーヴィーは細かく転調するコード進行の上に優れた旋律を成り立たせることができる数少ないメロディーメーカーだけど、この曲でもその妙技を存分に楽しめる。複雑なコード進行でメロディーを作る天才がスティーヴィーなら、シンプルなコード進行でメロディーを作る達人がポール・マッカートニーという話をどこかで読んだことがある。異議なしです。

●6.「I Wish」

 ファンの間では3部作として親しまれている『トーキング・ブック』『インナービジョンズ』『ファースト・フィナーレ』に収められた曲(たとえば「迷信」)が持つプリミティブな曲調を色濃く残したファンキーなナンバー。スティーヴィーのクラビネット、ドラムスとNathan Wattsのベース、そしてホーンセクションが生み出すグルーブ感が素晴らしい、これも“ダンスナンバー”だ。
 アルバムからのファーストシングルで、ビルボード初登場40位。7週間後の1977年1月22日、スティーヴィーにとって5枚目のナンバーワンシングルになった。過去の4枚はLittle Stevie Wonder時代の「Fingertips Pt.II」(1963年8月10日)、「Superstition迷信」(1973年1月27日)、「You Are the Sunshine of My Life」(1973年5月19日)、「You Haven't Nothin' 悪夢」(1974年11月2日)。
 バイオレンス渦巻くデトロイト近郊の町で過ごした少年時代の“不良ぶり”を、感傷を抜きにしてストイックに回想する内容と、曲のカッコよさで、DISC1ではいちばん好きな曲です。





●7.「Knocks Me Off My Feet」

 5.→ 6.→ 7.と続く曲の流れは鳥肌が立ちっぱなし。印象的なピアノのイントロで始まる美しいバラードだが、詞の内容は痛切だ。「君の愛の何かが 僕を弱くして 足をすくわれてしまう」といった具合に、愛すれば愛するほど自分が深い悩みの淵の中に陥ってしまう混乱を、「僕は君を愛している そのことで君を退屈させたくないんだ」と歌っているのだと私は思う。

●8.「Pastime Paradise」

 Percussion(ハレ・クリシュナ)以外演奏はすべてスティーヴィー。これはラテンのリズムに乗ったゴスペルではないだろうか。ここでもストリングスのアレンジが施されたシンセザイザーが曲を盛り上げている。
リズムはラテンだが歌詞とメロディーはシリアスで重々しい。
 「彼らは人生のほとんどを娯楽パラダイスで過ごしてきた」と訴える懺悔的な前半から、「---tion」の名詞をまるでトランプの切り札をさらすように次々と突き出し、ひとつひとつの「---tion」の意味を具体的にイメージしつつ、「未来のパラダイスをめざして 人生を送り始めよう」と宣言するラストへと導いている。
 この曲も、7.までと、9.からをつなぐプロムナード的な意味を持つようには感じられるけれど、最後のドラの音(ね)は一体何を意味するのだろう。

●9.「Summer Soft」

 小鳥のさえずりを伴って聴こえてくるのは『イン・スクエア・サークル』に収められている「オーバージョイド」にも通じる“優しさ”に満ちたスティーヴィーのヴォーカル。
 Aメロの最初、Summer soft...Morning rain...Winter wind...Morning snow....これらの言葉も美しく、それに続く歌詞も詩的だ。でも、歌われている内容は例によって甘くない。「10月に彼女は去り 夏は去る」「4月に彼は去り 冬は去る」・・・そんな別れを切々と歌っている。
 DISC1を通じてスティーヴィーは『人生の要所に聴く歌ども』を通じて人生の様々な側面を厳しく真正面から切実にとらえようとしているかのようだ。

●10.「All Day Sucker」

 スティーヴィーじゃなければ出せないファンク&グルーブだ。こういうのを聴かされると、ソングライターとしてのキャパシティーのでかさに「参りました!」っていう感じだなあ。
 スティーヴィーの曲にしてはめずらしくギターソロがある。これが結構カッコイイんだな。Lead  Guitar:W.G.’Snuffy’Walden。曲と同じく詞もねじれてるけど、メロディーと歌詞がドンピシャ。

●11.「Easy Goin’Evening (My Mama's Call)」

 スティーヴィーのハーモニカをフューチャーしたインストゥルメンタル・ナンバー。何の気苦労もない夕暮れ時に、ママの呼ぶ声が聞こえる。そんな子供の頃の情景が浮かんで来るようだ。
 アルバムのラストにふさわしいこの曲を聴いて、パッとPrinceの『Parade』のラスト曲「Sometimes It Snows In April」を思い出した。桑田佳祐の『ROCK AND ROLL HERO』のラスト「ありがとう」もそうだけど、みんな最後は、心の奥にしまっておいた本当のことを言って終わりにしたいんだなあ。


◆やっぱり70年代を代表するアルバムだ!

 音と詞ということで言えば、スティーヴィーは完全に音の人ですね。ブラックミュージック、とくにHIP HOPのヘヴィーリスナーである友人と話をしていた。スティーヴィーの話になって、友人は「『RIBBON IN THE SKY』は号泣だよ」と。でも彼は歌詞を知らずに聴いていた。
 そうなんだね。スティーヴィーはサウンドだけで人の心をMOVEできる。歌詞カードとにらめっこしながら聴く。そういうタイプのミュージシャンではないっていうことだね。でも今回、歌詞にも着目して聴いてみて、スティーヴィーがロマンチストでストイックだっていうことがよくわかった。これは大きな収穫。
 『The Woman in Red』のサントラ盤を持っているけど、このアルバムでは大衆性あるいは商業的価値が作品性や作家性を上回ってるいると思う。作品性・作家性と大衆性とのバランスが、高いレベルで保たれていたいたのは、やはり『Hotter Than July』までではないだろうか。で、そのバランスのピークが『Key of Life』であると。それが私の結論。
 ただし、『Key of Life』以前の3部作の洗礼を私は受けていない。それから、スティーヴィーは、「Lately」「Ribbon in the Sky」「Overjoyed」・・・と、バラードに関しては、年代に関係なく傑作を生んでいる。そこに空腹感を覚えてるんで、『Talking Book』『Innervisions』『First Finale』を、それから『バラード集』を聴いてみよう。もちろん今度は歌詞にも気を配りながら。
 最後に、これは余りに当たり前の事実で、あえて指摘されなくなっていることなんだけど、スティーヴィーが持ってる才能の筆頭に来るものだと思うので、あらためて言っておこう。

 Stevie Wonderは、歌が、超うまい!!

by kzofigo | 2014-01-27 14:29 | ミュージック・ブック