10/9 健さん
【ブックレビュー】
高倉健インタヴューズ 野地秩嘉/文・構成
『キャンティ物語』のノンフィクション作家、
野地秩嘉(のじつねよし)が18年をかけて編んだ力作だ。
本を開くと十文字美信が撮影した総扉のアップ写真に圧倒される。
手抜きなしで生きてきた男の顔だ。
81歳になる俳優・高倉健がいかにしてこの表情を獲得したのか。
この本はその具体的な証言集である。

桐子「ねえ、私大きな声出さなかった?」
英次「いいや・・・(樺太まで聞こえるかと思ったぜ)」
著者が健さんから話を聞いたのは『鉄道員 ぽっぽや』『ホタル』『単騎、千里を走る。』
『あなたへ』の製作期間中に当たる1995年から2012年まで。
本人以外にも小林稔侍、降旗康男、元東映社長・高岩淡、カメラマン・木村大作、
録音技師・紅谷愃一(べにたにけんいち)、宇崎竜童らの話を取り上げることで、
健さんの人間像が多面的に浮かび上がっている。

松田優作「高倉健さんって、ありがたいよね。健さんが道をつけてくれたから、
日本人の俳優というだけで尊敬される」~『ブラック・レイン』にて
一番好きな俳優。一本は11回も観たという衝撃を受けた二本の映画。俳優を目指した頃の逸話。
東映仁侠映画をはじめ『冬の華』『八甲田山』『幸福の黄色いハンカチ』『駅 STATION』
『居酒屋兆治』『ブラック・レイン』『あ・うん』など出演作への想いや裏話。
『運動靴と赤い金魚』『ディープ・インパクト』『あの子を探して』
『ベスト・キッド』『波止場』といった海外作品にも言及している。
まさにファン垂涎の内容だ。

意外なのは出演作を選ぶ基準。
少なからず驚き理由を知って納得するだろう。
著者の地の文のなかでは健さんの演技の特徴を分析・解説した章が興味深い。
朝日新聞の書評では横尾忠則が「気」と「表現者の幸せ」に焦点を絞って評している。
40年もの間、健さんが映画スターとして第一線を走り続けていることに合点がいき、
その大きな存在に改めて感謝したくなるプラチナ本。
読後、出演作を観直せば、きっと新しい発見があるはずだ。
◆プレジデント社 1680円
・・・大滝秀治氏のご冥福をお祈り致します。
高倉健インタヴューズ 野地秩嘉/文・構成
『キャンティ物語』のノンフィクション作家、
野地秩嘉(のじつねよし)が18年をかけて編んだ力作だ。
本を開くと十文字美信が撮影した総扉のアップ写真に圧倒される。
手抜きなしで生きてきた男の顔だ。
81歳になる俳優・高倉健がいかにしてこの表情を獲得したのか。
この本はその具体的な証言集である。

桐子「ねえ、私大きな声出さなかった?」
英次「いいや・・・(樺太まで聞こえるかと思ったぜ)」
著者が健さんから話を聞いたのは『鉄道員 ぽっぽや』『ホタル』『単騎、千里を走る。』
『あなたへ』の製作期間中に当たる1995年から2012年まで。
本人以外にも小林稔侍、降旗康男、元東映社長・高岩淡、カメラマン・木村大作、
録音技師・紅谷愃一(べにたにけんいち)、宇崎竜童らの話を取り上げることで、
健さんの人間像が多面的に浮かび上がっている。

松田優作「高倉健さんって、ありがたいよね。健さんが道をつけてくれたから、
日本人の俳優というだけで尊敬される」~『ブラック・レイン』にて
一番好きな俳優。一本は11回も観たという衝撃を受けた二本の映画。俳優を目指した頃の逸話。
東映仁侠映画をはじめ『冬の華』『八甲田山』『幸福の黄色いハンカチ』『駅 STATION』
『居酒屋兆治』『ブラック・レイン』『あ・うん』など出演作への想いや裏話。
『運動靴と赤い金魚』『ディープ・インパクト』『あの子を探して』
『ベスト・キッド』『波止場』といった海外作品にも言及している。
まさにファン垂涎の内容だ。

意外なのは出演作を選ぶ基準。
少なからず驚き理由を知って納得するだろう。
著者の地の文のなかでは健さんの演技の特徴を分析・解説した章が興味深い。
朝日新聞の書評では横尾忠則が「気」と「表現者の幸せ」に焦点を絞って評している。
■演技の核の「気」、解明に挑戦
18年という長期にわたって行われた高倉健へのインタビュー集である本書で著者は「健さん」の徹底解剖に挑戦するが、その実像は新作映画「あなたへ」の霧に包まれた古城跡のように、全貌(ぜんぼう)が見え隠れする。
自己に忠実で常に自然体の健さんと時間を共有した者の多くは個を取り戻したかのような幸福感を味わうのが本書でもわかる。そんな高倉健は演技の核に「気」という見えない力の存在を設定する。このことが気になる著者は「気」の正体の究明にかかる。
「気」は絵画にあっても不可欠な表現力を有し、絵画が現実を模写することに意味のないように、映画には映画の現実が要求されるが、健さんの求めるリアリティーは違う。演じる人物の心情を共有することで内発する感情をそのまま映画表現に移植する。このことで虚構が現実と同一化するが、その力の源泉が「気」であるように思う。
本書でも触れている「あなたへ」の大滝秀治の、聞き逃してしまいそうな素っ気ない「久しぶりにきれいな海を見た」というセリフを聞かされた健さんは大滝さんにしびれるようなリアリティーを感じ、消えかかっていた自らの俳優生命を延命させる機をつかんだ、と正直に告白する。このセリフの重みと真意はおそらく健さんにしかわからないだろう。健さんは大滝さんの演技に何を見たのか?
過日、放映されたテレビドキュメントで健さんは「幸せになりたい」とポツンと語ったが、この言葉にも重いメッセージが込められていると感じた。優れた一流の表現者にしか吐けない言葉である。優れた表現者は孤独を友とし、仕事を通してしか幸せは得られないという宿命を背負っている。表現者が幸せを望むなら、自らの生き方を反映した自分らしくふるまえる作品に出会うしかないのかも知れない。そして健さんの幸せはファンの幸せでもある。
40年もの間、健さんが映画スターとして第一線を走り続けていることに合点がいき、
その大きな存在に改めて感謝したくなるプラチナ本。
読後、出演作を観直せば、きっと新しい発見があるはずだ。
◆プレジデント社 1680円
・・・大滝秀治氏のご冥福をお祈り致します。
by kzofigo | 2012-10-09 23:36 | ミュージック・ブック
























