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書を捨てよ、旅へ出よう。

【ブックレビュー】

作家の旅  コロナ・ブックス編集部:編

堤防に佇み客船に目をやる寺山修司の写真と
「漂白とは、たどりつかぬことである。」で始まる彼の『旅の詩集』の一節。

この表紙を見るだけで旅心がむずむずし始める本書は、
平凡社コロナ・ブックスの定番、「作家」シリーズの最新刊。
15人の作家の旅を、ふんだんな写真、日記や書簡、作家自身の言葉などで追体験できる。


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16か所に移り住んだ、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)。
林芙美子は『放浪記』の印税でパリへ。村松梢風の蠱惑(こわく)的な上海の旅。
旅先で写真屋になる、寺山修司。山口瞳は日本各地の草競馬を転々と。冬の金沢で酩酊する、吉田健一。

作家はこれ以外に、萩原朔太郎、田中小実昌、種田山頭火、宮脇檀(まゆみ)、
竹中労(つとむ)、春日井建、堀内誠一、澁澤龍彦、須賀敦子といった顔ぶれ。
池内紀(おさむ)の小文「記憶のお土産」には金子光晴と辻まことの旅も登場する。

それぞれの旅の流儀や逸話を明かしてくれる、家族をはじめ作家にゆかりのある人物の記したエッセイ・・・思わず引き込まれる、無防備な表情の作家たちの写真や、手帳、便箋に書かれた手書きの文字や地図・・・作家たちが日常を抜け出し、絶えず旅に出かけては、鋭敏な嗅覚を研ぎ澄ませて戻って来る・・・

諸々の旅の記憶が、われわれの眠れる冒険心をとらえて離さない。

作家たち十人十色の旅に導かれ、自らの旅にこれまでにない色づけを施すのもいいだろう。
懐にからっ風が吹くこんな時代だからこそ、財力ではなく想像力で旅をより豊かにすることができるかも。

眺めているだけで旅情をそそられ、本書を携え、無性に旅に出たくなる一冊だ。


◆平凡社 1680円

by kzofigo | 2012-05-30 10:13 | ミュージック・ブック