ためらいと決意の写真集
【ブックレビュー】
Home 美しき故郷よ 宍戸清孝/写真・文 Kappo編集部/編
仙台に生まれ、仙台に住まう写真家だから撮り得た、誠実な写真の数々。
2004年、太平洋戦争に従軍した日系二世をポートレートと証言で取り上げた『21世紀への帰還Ⅳ』で、すぐれた写真集に贈られる「伊奈信男賞」を受賞している、仙台在住の写真家・宍戸清孝。
人物・環境・文化をテーマとしたドキュメンタリーを得意とする彼が、アシスタント・菅井理恵と東日本大震災の翌日から被災地を回り、1年間にわたって撮り続けた写真をまとめた本だ。
700人以上が犠牲になった名取市閖上(ゆりあげ)をはじめ、巨大津波が襲った沿岸被災地の惨状、米軍が自衛隊と協力しながら任務に当たる様子、津波に流されて来たそれぞれの人にとってかけがえのない物たち、津波に襲われた時刻を刻んだまま止まった時計。
行き先を見失った線路、身元不明の遺体の仮土葬場に立てられた「不詳」の立て札、天日干しされる鯉のぼり、校庭に建てられた仮設住宅、水揚げを再開した石巻魚市場、市民が待ち望んだ夏祭り・六魂祭(ろっこんさい)など、カラーとモノクロの計156点。
震災後初めて被災地に入った宍戸は想像以上の被害に言葉が出ず、「シャッターが切れなかった」と語る。4月1日、「やはり被災地を撮影しなければ」と思った石巻市・日和山(ひよりやま)公園での「霧の決意」を境に、春から夏、秋から冬へと移り変わる季節のなかで、苦悩や葛藤を抱えながら、それでもレンズを向け続けた。
カメラマンとしてこの惨禍を記録するのは当然だと思いつつ、むごい現場に衝撃を受け、自分が撮影する意味があるのかと何度も何度も迷いながら、写真を撮ることに真摯であり続けるひとりの人間としての宍戸の姿勢に心打たれる。
震災を撮った写真はたくさんあるが、この写真集は当事者としての写真であり、証言だ。だから、ためらいと決意が浮かび上がり、せめぎあう。その心のありさまが写真に色濃く反映されているところが、この写真集が持つ説得力につながっている。
実名入りで撮られた被災者のポートレートが印象深く、カラーからは「叫び」が、モノクロからは「祈り」が伝わってくる。宍戸が「おわりに」で言うとおり、故郷を慈しむ気持ち、心の「HOME」がある限り、人々は再び立ち上がれると信じたくなる、実直な写真集だ。
なお、本書の売上の一部は震災孤児を支援する、あしなが育成会に寄附される。
◆プレスアート発行 2100円
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仙台に生まれ、仙台に住まう写真家だから撮り得た、誠実な写真の数々。
2004年、太平洋戦争に従軍した日系二世をポートレートと証言で取り上げた『21世紀への帰還Ⅳ』で、すぐれた写真集に贈られる「伊奈信男賞」を受賞している、仙台在住の写真家・宍戸清孝。
人物・環境・文化をテーマとしたドキュメンタリーを得意とする彼が、アシスタント・菅井理恵と東日本大震災の翌日から被災地を回り、1年間にわたって撮り続けた写真をまとめた本だ。
700人以上が犠牲になった名取市閖上(ゆりあげ)をはじめ、巨大津波が襲った沿岸被災地の惨状、米軍が自衛隊と協力しながら任務に当たる様子、津波に流されて来たそれぞれの人にとってかけがえのない物たち、津波に襲われた時刻を刻んだまま止まった時計。
行き先を見失った線路、身元不明の遺体の仮土葬場に立てられた「不詳」の立て札、天日干しされる鯉のぼり、校庭に建てられた仮設住宅、水揚げを再開した石巻魚市場、市民が待ち望んだ夏祭り・六魂祭(ろっこんさい)など、カラーとモノクロの計156点。
震災後初めて被災地に入った宍戸は想像以上の被害に言葉が出ず、「シャッターが切れなかった」と語る。4月1日、「やはり被災地を撮影しなければ」と思った石巻市・日和山(ひよりやま)公園での「霧の決意」を境に、春から夏、秋から冬へと移り変わる季節のなかで、苦悩や葛藤を抱えながら、それでもレンズを向け続けた。
カメラマンとしてこの惨禍を記録するのは当然だと思いつつ、むごい現場に衝撃を受け、自分が撮影する意味があるのかと何度も何度も迷いながら、写真を撮ることに真摯であり続けるひとりの人間としての宍戸の姿勢に心打たれる。
震災を撮った写真はたくさんあるが、この写真集は当事者としての写真であり、証言だ。だから、ためらいと決意が浮かび上がり、せめぎあう。その心のありさまが写真に色濃く反映されているところが、この写真集が持つ説得力につながっている。
実名入りで撮られた被災者のポートレートが印象深く、カラーからは「叫び」が、モノクロからは「祈り」が伝わってくる。宍戸が「おわりに」で言うとおり、故郷を慈しむ気持ち、心の「HOME」がある限り、人々は再び立ち上がれると信じたくなる、実直な写真集だ。
なお、本書の売上の一部は震災孤児を支援する、あしなが育成会に寄附される。
◆プレスアート発行 2100円
by kzofigo | 2012-03-28 21:48 | ミュージック・ブック