人気ブログランキング | 話題のタグを見る

一枚のハガキ

第二次大戦末期の話です。
中年兵として徴集された啓太(豊川悦司)が、
仲間の定造(六平直政)から一枚のハガキを渡されます。
そこにはこう書かれていました。


今日はお祭りですが
あなたがいらっしゃらないので
何の風情もありません。友子


召集された100人のうち94人が戦死し、啓太ら6人だけが生き延びます。
その生死を分ったのは、兵士たちに次の任地へ赴かせるため、
上官が引く「くじ」でした。

終戦後、啓太はハガキを送ってきた定造の妻・友子(大竹しのぶ)を訪ね・・・と話は続きます。


一枚のハガキ_b0137183_23491544.jpg


日本最高齢の映画監督・新藤兼人が、自ら「映画人生最後の作品」と称したこの映画。
監督自身が生き残り兵士6人の1人だった実際の体験をもとに制作されたそうです。

人の命が「くじ」などという決め方でもてあそばれ、兵士の死ぬことは、
それ即ち、残された家族の行く末を無残なものに変えていきます。

戦争の愚を、体験者でしかなし得ぬまなざしで、
激昂と哄笑を交錯させながら、みごとに描き切っています。
無一文になっても、前を向いて生きていこうとする逞しさに満ちた美しいラストは、
神々しくさえありました。

豊川、大竹をはじめ大杉漣、柄本明、倍賞美津子、津川雅彦といった
新藤作品に出演経験のあるキャストが、それぞれの持ち味を以って、
迫真の演技により、新藤監督のメッセージを体現していました。

体を張って滑稽な役どころを引き受けた大杉漣の芝居が光っていました。

独立プロとはいえ、もう少し資金面でどうにかならなかったのか。それが残念でした。

★★★★☆

by kzofigo | 2012-03-18 23:43 | ムービービーム