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優しい暗示  1/27  

【CDレビュー】

月の光 ~Clair de Lune~   遠藤響子


1981年にビクター・レコードから『告白テレフォン』(作詞:遠藤京子 作曲:筒美京平 編曲:後藤次利)でデビューした、遠藤響子。その後、ソニー、ファンハウスを経て、2003年にプライベート・レーベル「Pure Mode Records」を設立。ピアノの弾き語りで息の長い活動を続けるシンガー・ソングライター。

このアルバムは、彼女のデビュー30周年を記念した作品です。全曲、作詞作曲を本人が手がけています。僕たちには、1981年の日本レコード大賞編曲賞を受賞した、寺尾聰のシングル『ルビーの指環』とアルバム『REFLECTIONS』・・・・そのアレンジで記憶に残る井上鑑をプロデューサーとアレンジャーに迎え、サポート・ミュージシャンには、菅野よう子、小倉博和、三沢またろう、井上富雄など名だたるミュージシャンが参加しています。

M1.震災後に書かれ、悲しみに暮れる人々の肩を優しく抱く『あなたは強い人』。
M2.母親との間をさえぎる心の扉の鍵を失くしたような『ありがとうが言えない』は、ラテンフレイバー薫るバンド・サウンドが一台のピアノに聴こえてきます。
M3.井上鑑と菅野よう子の豪華組み合わせによるピアノデュオとともに、女性たちに自分に正直であれとエールを贈る『女たちよ』。

M4.年老いた母の大きな愛を心から慈しむ『深い海みたいな愛情の海』は、村田陽一のトロンボーンがむせび泣く名バラード。
M5.「ひとり」である自由の尊厳を主張する『一人が好き』は、アルバム・タイトルでもあるドビュッシーの「月の光」とヴォーカルが絡む秀逸なアレンジに鳥肌が立ちます。
M6.少しわがままな欲求を、太陽や地球、鳥やカエルと結びつけながら、一編の詩を踊りながら詠むようにあらわしたリズミカルな『一日の終わりに』。


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M7.大切な愛を失った痛みを重たく嘆く美しいワルツ『バカみたい』。
M8.小倉博和が奏でる独奏曲のようなアコースティック・ギターとのデュエットで、自分と一緒に歳を取る、恋する気持ちを慰めた『恋心』。
M9.10年以上も前に書いたナンバーで、タイトルも素敵だけど曲も素晴らしい、僕にとってはアルバムのハイライト的なナンバー『優しい暗示』。

M10.これも震災後に書かれ、困難の最中にいる人を、井上鑑の演奏と溶けあった歌で、やわらかく抱きしめる『貧しき者』。
M11.山木秀夫をドラムに迎えたピアノトリオとのジャジーでライヴ感あふれる『誰だって魔法が好き』。
M12.菅野よう子のピアノ一台で、アルバムのラストを飾るのにふさわしく、一夜の宿りから次の場所へと旅立つような印象の『遠い出来事』。

僕と同学年のベテランながら(失礼!)、全12曲のどれもが、とてもピュア。それと同時に芯の強さを感じさせます。それは、音楽を真摯に愛し続ける一途さが、彼女の歌にあらわれているからでしょう。もう一歩踏み込んで言えば、ヒットチャートの俗っぽい喧騒に毒されていない純粋さであり、地に足が着いている強さです。

心の奥底で人生を肯定している言葉が「詩」のように連なって、声高ではなく、語りかけるように伝わってきます。日本語の美しさが際立ち、アコースティックでシンプルな演奏に呼応した、誠実で滋味に富んだ歌声。そして、手作りの温かみと、大人の余裕を感じさせる、ゆったりと落ち着いたサウンドと、バンドとの一体感が、実に味わい深い。優しさと厳しさがブレンドされた音楽でギュッとハグされるような、幸せへの「優しい暗示」に満ちた佳作です。

誤解を恐れずに言えば、下手に売れないでほしいぞ、遠藤響子。



by kzofigo | 2012-01-27 23:21 | ミュージック・ブック