人気ブログランキング | 話題のタグを見る

家族ゲームの・ようなもの  12/27

1983年の前半だったと思う。大阪・梅田のロードショー館で『家族ゲーム』を3歳年下の美女3人と観た。映画の目的は、もちろん松田優作だ。テレビドラマ『探偵物語』と映画『遊戯』シリーズなどによって、優作は当時、男女を問わず色めき立つスターだった。

映画を観終わって、美女のうち2人は「?」、美女ひとりと僕は「!」だった。「!」の美女ひとりが僕の彼女だったことがうれしかった。ひとつの演技、ひとつのセリフ、ひとつの場面のたびに、笑いながら拍手したくなるような気分の連続だった。とにかく斬新だった。天晴れだった。

優作はアクションスターを脱皮したのか!?・・・と思ったけど、宮川一朗太にしっかりビンタを食らわし、ラストには映画史上に残るケッサクな乱闘シーンを用意してくれていた。

これが森田芳光監督との出会いだ。


▼先日BSで追悼放映。観たが、やっぱり映画館じゃないとダメだ


「ハエ、ハエ、カカカ、キンチョール」などヒット作を連発していたCMディレクターの川崎徹がくやしそうにコメントしていた。「僕がやろうとしていたことを全部やられた」と。

その年の11月、有楽町シネマで『家族ゲーム』のリバイバル上映が始まり、舞台挨拶があるから初日の初上映を観に行った。巨人ファンの宮川一朗太が前日の(しつこいようだが僕が史上最高の日本シリーズだと思っている)「西武×巨人 第6戦」でリリーフに江川と西本を投入し負けたことをボヤいていて、「ああ、この子は大成しないな」と直感した。

以降、「森田芳光」の名前で観るようになった。彼は確か渋谷宇田川町の色町の出だ。その後、『の・ようなもの』を観返し、『それから』『そろばんずく』と観たけど、生まれ育ちのせいか艶っぽさがあり、既成の映画のセオリーを逸脱したところに、真新しくて、やけに素敵な森田印のスタイルを、打ち立てていった・・・・・。


         ▼チャットをいち早く採用した1996年の『(ハル)』。主演:深津絵里、内野聖陽
家族ゲームの・ようなもの  12/27_b0137183_11325282.jpg


その後も監督と脚本でスポット的にキラリと光る仕事を見せてくれていたが、初期の頃ほど「監督・森田芳光」というだけで無条件で映画館に足が向くことがなくなっていったのは残念だ。でも、最初の5本で映画ファンに、それ以降の作品でも映画スタッフに独創性やひらめきの忘れがたい一撃を残してくれたことは十二分に称賛に値する。

あるネット通販サイトに書き込んだ、自分のレビューを引用して、森田芳光監督への追悼の意とさせていただく。批判も書いているけど、世に出た頃の「志」の高さを取り戻してほしいと願う渇望から出た言葉と受け取ってもらえるとありがたい。



松田優作と森田芳光との共犯関係。


家族ゲームの・ようなもの  12/27_b0137183_0235572.jpg


『太陽にほえろ!』を皮切りに『遊戯』シリーズや『野獣死すべし』などでアクションスターとしての地位を確固たるものにしていた松田優作は、自らのなかに新しい俳優像を模索していた。

そして、1983年、8ミリの自主映画出身でみずみずしい感性を持つ森田芳光監督と『家族ゲーム』で出会う。日本映画の新しい方向を示す重要な作品である『家族ゲーム』は、キネマ旬報作品賞・主演男優賞、日本アカデミー賞優秀主演男優賞をはじめ、賞という賞を総なめにした。

1985年、松田優作は森田芳光と再びコンビを組む。それが『それから』だった。「人間を描くなら、ゆるがぬ作家の作品を掘り下げたい。文学作品の心理描写をどこまで映像化できるか」という森田監督の挑戦に乗った優作は、テレビドラマを手がけていた筒井ともみを引っ張ってきて脚本を書かせ、音楽も自分で選んだ梅林茂を起用するなど、キャスティングも含めプロデューサー的な役割を果たした。

この漱石の作品・・・・明治後期の東京で、妻も持たず、父の財産に寄食する高等遊民である代助が、親友・平岡の妻・三千代との恋のために、肉親も親友も、自分の哲学すらも捨てる・・・・という話で、優作は役を考えるときの洞察力の深さに拍車がかかり、森田が築いた端正な映像美と緊迫した空間構成に対して、最高の演技で応えてみせた。

『それから』は、夏目漱石の解釈としてもユニークで上質な作品と評価され、キネマ旬報作品賞・監督賞を得ている。共演、藤谷美和子、小林薫、笠智衆、中村嘉葎雄、草笛光子、風間杜夫ほか。 撮影、前田米造。スタイリスト、北村道子。

日本映画にとって、ひとつの到達点といえる珠玉の作品だと思う。★★★★★



夏目雅子でリメイクして!


家族ゲームの・ようなもの  12/27_b0137183_024112.jpg


「女ひとり男ふたり」の物語、「森田芳光+筒井ともみ」のコンビとくれば『それから』を思い出し、期待する。それがあっさりと裏切られちゃったよ。

伊東美咲が、もの足りない。キレイなだけで、男ふたりを虜にするような色香が伝わって来ない。脱ぎっぷりを言うなら、序の口もいいとこだ。井筒和幸『犬死にせしもの』(←佐藤浩市、出てる)の今井美樹、今村昌平『カンゾー先生』の麻生久美子、映画初出演でヌードを披露し、体当たりの演技を見せたこの2人の爪の垢を煎じて飲んだほうがいいと思います。

佐藤浩市、仲村トオルも、野性味に欠けて、とても南茅部の男に見えないよ。

森田芳光は、伊東美咲を脱がしたことで満足し切っちゃって、それ以上の制作意欲が“失楽園”になってしまったの? 柳町光男『火まつり』『さらば愛しき大地』ぐらいまで人間の煮えたぎるカルマを見せてほしかったんだけどなあ。『魚影の群れ』(←佐藤浩市、これにも出てる)を撮った相米慎二の偉大さとその不在を感じさせちゃう結果になってるよ。

それでも幾つかの見どころはあった。薫の弟・孝志役の深水元基は、Tall Nakamuraよりタッパがあって、肉体に存在感がある。薫の母・タミ役の三田佳子はさすが。邦一と薫の諍いを諌めに行こうと和服姿で着合いを入れたさまは、「極妻」を思わせる殺気が走った。また、薫の姑・みさ子役の白石加代子の鬼気迫る演技も光る。で、★2つです。

日本情緒たっぷりの典型的な三連哀歌である主題歌は、どこにMisiaとTAKUROのコラボレーションの必要性があるのか疑問。話題づくり止まりじゃないかな。いっそ、“ちあきなおみ”を復活させて、本物の演歌で勝負したほうがいいと思いました。

ぜひ、薫・夏目雅子、広次・鶴見辰吾、邦一・根津甚八で、リメイクしてほしいです。
タイムマシンにお願い。★★☆☆☆



戸田菜穂と愛欲に溺れたい。


家族ゲームの・ようなもの  12/27_b0137183_0242898.jpg


「原作を読みたくなる度」がベラボーに高い映画だなあ。映画での設定やエピソードの背景を知りたくなる。兄弟それぞれの職業がいいね。地味だけど専門職で興味をそそられる。

畑違いか種違いとしか思えない30歳を過ぎた兄弟の「同棲生活」は、正直、キモいんだけど、不快感が薄いのは、市場・銭湯・喫茶店・薬局・・・・とか「街」に兄弟が溶け込んでいるからだろうね。間宮兄弟と、この街との、やさしくてオモロイ関係は、とってもうらやましかった。兄弟が住んでる部屋の間取りや家具類も気になるし。それと向かいのマンションの住人。あいつらは何なんだ!?

それにしても、なんて豪華な女優陣なんだろう! 常盤貴子、沢尻エリカ、北川景子、岩崎ひろみ、戸田菜穂、中島みゆき、加藤治子、広田レオナ・・・・これだけで 『大奥 エピソード2』 が撮れそうじゃないか。2006年5月13日公開だから、沢尻エリカは「別に」騒動の以前だし、北川景子はブレイク前。タイミングが可能にした贅沢なキャスティング。

演技がうまいのは常盤貴子で、いい味を出しているのは中島みゆき。でも、ひとりだけ選んでいいよっていう夢のような言葉をいただけたなら、迷わず、戸田菜穂。清楚と不貞のはざまで、アンビバレントな性愛に、いたぶられ、いたぶりたい。タブーを犯し、タブーに犯されたい。

それにしても、森田芳光。『のようなもの』『家族ゲーム』『そろばんずく』『それから』の頃の映画のセオリーをぶち壊しちゃる!っていう気骨は、どこへ行ったんだ???

ゆるい演出とギャグで時代と歩調を合わせるなんて、50年早いんじゃないか? 鈴木清順や今村昌平を見習えよ! 井筒和幸を蹴落とせよ! じゃないと、優作が許さねーぞ!! ★★★☆☆


【森田芳光全仕事のうち自分が観たものから選んだベスト5】

●『家族ゲーム』(1983年)
●『それから』(1985年)
●『ウホッホ探険隊』(1986年、根岸吉太郎監督)脚本のみ
●『そろばんずく』(1986年)
●『39 刑法第三十九条』(1999年)


森田監督の葬儀後のインタビュー映像で、『家族ゲーム』に主要キャストとして出演していた由紀さおりが、「休憩になると必ず、監督と伊丹さんと優作さんとで、映画の話を熱心にされていた」といったようなエピソードを語っていた。

その、松田優作、伊丹十三、森田芳光が鬼籍に入り、由紀さおりが40年ぶりに脚光を浴びた。何かえも言われぬ「縁」を感じて仕方がない。それにしても61歳は早すぎるよ。




森田芳光氏のご冥福をお祈りいたします。

by kzofigo | 2011-12-27 23:29 | ムービービーム