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冬のムービー収穫祭【1】

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小学生の兄弟、航一と龍之介は、両親の離婚で、鹿児島と福岡で暮していた。ある日、航一は、新しく開通する九州新幹線の一番列車がすれ違う瞬間を見ると奇跡が起こるという噂を聞く。もう一度、家族で暮したい航一は、弟と友だちを誘い「奇跡」を起こす計画を立てる…。

『誰も知らない』の是枝裕和監督が、自ら脚本と編集も手がけ、再び子どもたちの視点で日本の家族のありようを問う。生き生きと交わされる会話。航一と龍之介の背景をていねいに描いたエピソード。さり気ないが大切な場面をとらえた短いショット。さらに、懸命に生きる大人の姿を盛り込み、それらの積み重ねが映画のラストで、ささやかな感動となって結実する。自分たちなりに悩み、知恵を絞り、懸命に目的を果たそうとする子どもたちの姿がほほ笑ましくもいじらしい。

主演は、兄弟漫才コンビ「まえだまえだ」の前田航基・旺志郎。リーダー格ながら繊細な兄、天真爛漫に見えて一番傷ついている弟を、それぞれ自然体で演じ、物語を引っ張っている。祖母・樹木希林との共演を果たした内田伽羅ら子役たちも個性的だ。出演は、オダギリジョー、夏川結衣、阿部寛、長澤まさみ、原田芳雄、大塚寧々、橋爪功ほか。インディーズのバンド活動にうつつを抜かす父親役のオダギリ、オリジナルの「かるかん」作りに精魂を傾ける祖父役の橋爪功が印象に残る。高橋長英・りりィ夫妻と子どもたちが出会うエピソードは夢のようで、それ自体が奇跡だと思った。

大人は毎日を「生活」しているが、子どもたちは今を「生きて」いる。それがすでに奇跡なのだ(~谷川俊太郎)と気づかせてくれる秀作だ。是枝作品は『幻の光』から観ているが、この映画で初めて感動した。

★★★★★

by kzofigo | 2011-11-29 22:27 | ムービービーム