人気ブログランキング | 話題のタグを見る

THE CRAZIES

ホラー映画ファンは
このDVDを観よ!


クレイジーズ
(2010年11月13日公開/アメリカ映画/ブレック・アイズナー監督)



THE CRAZIES_b0137183_16471097.jpg

細菌兵器を積んだ軍用機が小さな町の川に墜落、ウイルスが漏れ出し、水を飲んだ住民たちが次々と凶暴化。平和な町はパニックに陥ってしまう。保安官のデヴィッド(ティモシー・オリファント)は、妻で女医で妊娠中のジュディ(ラダ・ミッチェル)、副保安官ラッセル(ジョー・アンダーソン)、ジュディの助手ベッカ(ダニエル・パナベイカー)らとともに脱出を試みる。しかし、軍は事件を秘密裏に処理するため住民たちを隔離し始める。ジュディも妊婦であるがゆえに感染者と判断され隔離の身に。ウイルスの潜伏期間は48時間。もとは同じ町に住む顔見知りの住民が、凶暴化して襲いかかってくる。だが、家族や友人が凶暴な感染者に変わっていくのは、始まりにすぎなかった。大量の武器で町全体の焼却を迫る軍隊。果たしてデヴィッドら4人と住民たちは、この「狙われた町」から脱出できるのか…!?

「ゾンビ映画」の生みの親、ジョージ・A・ロメロ監督が『ゾンビ』(1978)の前に作り上げた幻の傑作『ザ・クレイジーズ/細菌兵器の恐怖』(1973)をもとに、『バイオハザード』『28日後...』『アイ・アム・レジェンド』を経て作られた「最新型感染サバイバル映画」の決定版。

「生き残り」と「感染者」の対決という単純な構図ではなく、仲間同士に生まれる疑心暗鬼、「感染者も正常者もすべて証拠隠滅」と軍隊が町全体を包囲するさま、そして自らが軍隊の処分の対象になっている絶望感を、緊迫感あふれるカメラワークで映し出した、サバイバル・アクション色の強い仕上がりだ。無駄がなく、視覚効果に長け、テンポのよい展開は見ごたえ十分で、冒頭から終幕までクギ付けになった。


THE CRAZIES_b0137183_1648485.jpg


この映画が上手いのは、アメリカに点在する典型的なスモールタウンを舞台にしたところ。休日ともなればみんなが野球を楽しみ、ほとんどが顔なじみ。昨日まで穏やかに談笑していた隣人が、突如として凶暴な「クレイジーズ」に変身し、襲いかかってくるのだ。しかも、感染源は上水道で、潜伏期間があるため、誰が、いつ発症するのかわからない。感染者の特徴は、何の感情もなく人を殺すこと。ゾンビのように人間を襲って食べたりはしない。住み慣れた町中に「顔見知りの通り魔殺人者」が次々と現われるという、まさに究極の不条理サスペンスなのだ。

もうひとつ上手いのは、主人公を、肩書きこそ保安官だが、超能力も特殊兵器もなくサバイバルを強いられる、観る人が自分を投影しやすいキャラクターに設定したことだ。デヴィッドは自分が感染しているのかどうかわからない。自分自身さえ信じられない不安のなかでは、正気と狂気の境界線がボケて見える。それでも、妻とお腹の子どもだけは守りたい。その思いだけで、果たしてデヴィッドはこの絶望的な状況から抜け出すことができるのか。映画の要所で登場する、軍事衛星がとらえた、すべてを見透かしたような映像が絶望感を煽っている。


THE CRAZIES_b0137183_16482281.jpg


さて、個人的な好みだけれど、この映画が大いに気に入ったのは、マーク・アイシャムが音楽を担当していることだ。マーク・アイシャムはNY出身のトランペッターでシンセサイザー奏者。ウィンダムヒルやストーンズ、ヴァン・モリソン、ジョニ・ミッチェルなどのアルバムに参加しているが、彼の本領が最も発揮されるのは映画音楽だ。彼が手がけたサウンドトラックは、それがどんなジャンルの音楽であっても、どれも「マーク・アイシャム」的としか言いようがない革新的なサウンドで、観る人の感情移入をやさしくエスコートする。

彼が参加している作品のなかからお気に入りをピックアップしてみると、『モダーンズ』(1988)、『ショート・カッツ』(1993)、『クイズ・ショウ』(1994)、『クラッシュ』(2004)、『ブラック・ダリア』(2006)、『ミスト』(2007)。(←全部おすすめ) 順番に、アラン・ルドルフ、ロバート・アルトマン、ロバート・レッドフォード、ポール・ハギス、ブライアン・デ・パルマ、フランク・ダラボンといった、そうそうたる監督たちの作品にアーティスティックな華を添えている。

『クレイジーズ』もオリジナル・サウンドトラックがリリースされているんだけれど、CDにしようか、それともMP3か、悩んでいるところだ。

おすすめ度★★★★★

by kzofigo | 2011-08-16 15:57 | ムービービーム