COLD FISH

随分前になるが5月5日に、『第9地区』をMOVIX倉敷で観て以来、約1年ぶりに映画館へ。
シネマ・クレールで最終日・最終回の19時55分から園子温監督『冷たい熱帯魚』を観て来た。
死別した前妻の娘(梶原ひかり)と現在の妻(神楽坂恵)。その折り合いの悪い2人に挟まれながらも、主人公の社本(しゃもと)信行(吹越満)は小さな熱帯魚店を営んでいた。波風の立たないよう静かに暮らす小市民的気質の社本。だが、家族の確執に向き合わない彼の態度は、ついに娘の万引きを招く。スーパーでの万引き発覚に窮地に陥る社本だったが、そんな彼を救ったのはスーパー店長の友人の村田(でんでん)だった。
村田の懇願により店長は万引きを許す。さらに大型熱帯魚店「アマゾンゴールド」を経営する村田は、娘をバイトとして雇い入れる。その親切な人柄と人のよさに誘われて、社本と村田夫婦との交流が始まる。しばらくして、利益の大きい高級魚の取引を持ちかけられる社本。それが、村田の悪逆無道な「ビジネス」と知り、同時に引き返せなくなる顛末への引き金となる…。
▼社本家の夕食はチンした冷凍モノとインスタントばかり

園子温監督は、社会の底辺でうごめく「悪」や「狂気」、そして「家族の崩壊」を一貫して描いてきたが、『冷たい熱帯魚』はその集大成である。テレビの延長にあるような映画を嗜好する人には向いてない。現実社会の下層部から漏れ出る汚泥の流れ着く先にあるような映画だからだ。
吹越満演じる冴えない熱帯魚店の店主・社本を、狂気の世界に巻き込んでいく完全な悪人、村田幸雄。虚偽の投資話を人に持ちかけ、契約が済むと何のためらいもなく命を奪い、この世から完璧に処理してしまう=透明にしてしまう、極悪非道の村田を、でんでんが水を得た熱帯魚のように演じている。

その快演ぶりは、いかがわしい顧問弁護士・筒井高康役の渡辺哲、村田の妻・愛子役の黒沢あすかにもいえる。とくに、大きなオッパイをたわわに揺らしながら、ずる賢い悪女として妖艶に狂っていく黒沢あすかの大胆な演技は、限りなく官能的で人の下半身を魅了する。
でんでんは、『お笑いスター誕生』で沸かせた、スタンダップ・コメディアンでもある。そのでんでんが、悪人の村田を演じることで、映画にはブラックコメディの趣が色濃く漂っている。
実際、村田と愛子が血まみれになりながら、手慣れた様子で死骸を解体する最も残虐なシーンでは、手を下している2人は嬉々としているし、観ているこちらもなぜか笑いが込み上げてくる。極限状態での言動は意に関係なく笑いを引き起こし、ホラー映画は突き抜けると笑える映画になるが、この映画が「狂気」のレッドゾーンに深く踏み込んでいる証しでもあるだろう。
▼英国版ポスター

英国版ポスターのキャッチフレーズは、「何が常人を殺人に走らせたのか?」になっている。
この作品では「家族」もテーマだ。通常は家族が崩壊し、解体し、そしてもう一度再生していくが、この映画では完全に崩壊していく家族が描かれている。また、主演・吹越満による「理想の父親像を探す旅」ともいえる。気の弱い社本に対し、「そんな弱気でどうする!」と一喝する村田の態度は、父が息子を叱咤激励しているように見える。
園子温監督は、観る人の価値観を、根底から揺さぶるような「悪」を映画のなかで現出できる人だ。現実での救いようのない「悪」というものは、奥深い思想性や人智を超えた力とは関係などなく、取るに足らないほど浅はかで、意地汚く、性根の卑しさにまみれている。この反吐が出そうな真実に真正面から向きあった類まれな意欲作で力作。それが『冷たい熱帯魚』だ。
吹越満、でんでん、黒沢あすか、渡辺哲の激演に比べて神楽坂恵と梶原ひかりの芝居が物足りない。2人は監督の特訓に泣いたというがまだまだだ。役者のアンサンブルが一枚岩に至っていないという点で星ひとつマイナス。

社本は、最後に、娘に向かって映画の本質ともいえるひと言を残す。
「人生は痛いんだよ」
ときとして人生は痛い。痛いよなあ。
★★★★☆
by kzofigo | 2011-08-04 23:47 | ムービービーム























