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慈恵医大のエレベーター

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医療グループの社長夫人・芽衣子(吉瀬美智子)は若い医師・時籐(阿部寛)と愛人関係になり、年の離れた夫を自殺に見せかけ殺害することを計画。犯行当日、芽衣子は約束の場所で時籐を待つが彼はいっこうに現われない。芽衣子が苛立ちを募らせるいっぽう、時籐はエレベーターのなかに閉じ込められるアクシデントに巻き込まれていた…。

『独立少年合唱団』や『いつか読書する日』といった丁寧で上質な作品を作る緒方明監督にオファーしたことが間違いかもしれない。国と時代の違いはあれど、上質な映像と演技でオリジナルをきれいにトレースした作品にとどまっている。これではリメイクした意味がない。

オリジナルは、1957年に、25歳のルイ・マル監督が自ら資金を調達して撮った、メジャー・デビュー作。マイルス・デイヴィスの即興演奏と手持ちカメラを駆使した撮影が斬新なモノクロ作品。フランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』やジャン・リュック・ゴダールの『勝手にしやがれ』と並んで、フランス・ヌーヴェルヴァーグを代表する名画だ。

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そんな評価の確立した名作をリメイクするなら、25歳の映像クリエイターを抜擢し、たとえば、オリジナルのマイルス・デイヴィスの音楽に合わせて、ヌーヴェルヴァーグの特徴である「即興演出・同時録音・ロケ中心」で撮る…みたいな逆の発想から入った、斬新な意欲作を観たかった。

平泉成、笹野高史、柄本明(←この3人映画出すぎ!)、津川雅彦のベテラン勢がいい演技をしているだけにもったいない。久しぶりに見る女優・熊谷真実の異質な演技が光る。彼女と柄本明が絡むシーンは、そこだけハードボイルドでシュールな空気が漂っていて面白かった。

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寡黙に一人芝居を強いられる阿部寛は適役で、吉瀬美智子はジャンヌ・モローとは違ったクールビューティーな魅力を発していたけど、もっとハードボイルドに振って、するりとサスペンスを味わわせてほしかった。玉山鉄二と北川景子のカップルにはもっと無軌道ぶりがほしかった。監督は「音楽はジャズだけは使わない。マイルスに勝てるわけないから」と言っていたが、渡辺香津美やYUKIをフィーチャーしたJazztronikを使ってるじゃん!

アルファ・ロメオとタイアップしているらしく、スパイダーのCMのようなカットがあったのには笑った。そのまんまリメイクするなら、ジャパニーズ・ヌーヴェルヴァーグをめざして、もっと遊んでほしかった。もしもルイ・マルの本家がなくて、これがオリジナルなら、よくできたサスペンス・ドラマとして星4つぐらい行くのになあ。

吉瀬美智子・阿部 寛・玉山鉄二・北川景子・平泉 成・りょう・笹野高史・熊谷真実・田中哲司・堀部圭亮・町田マリー・上田耕一・津川雅彦・柄本 明……キャストはけっこう豪華。

★★☆☆☆

by kzofigo | 2011-05-05 15:34 | ムービービーム