悪人の優しさは善人より深いのか?
土木作業員の清水祐一は、長崎の漁村で生まれ育ち、恋人も友人もなく、祖父母の面倒をみながら暮らしていた。佐賀の紳士服量販店に勤める馬込光代は、妹と暮らすアパートと職場の往復だけの退屈な毎日。そんな孤独な2人が出会い、刹那的な愛に身を焦がす。だが祐一には光代に話していない秘密があった…。
この映画に『チェイサー』『息もできない』など鮮烈な韓国映画に拮抗する“熱”をもたらしているのは、福岡・佐賀・長崎の九州北西部という土地柄が発する放射熱、ロケーションとして抜群に絵になる灯台の地熱、そして祐一(妻夫木聡)の愛車・スカGのエンスー熱だと思った。
役者の芝居に対してはもちろんだけど、その祐一と佳乃(満島ひかり)の父・佳男(柄本明/マーチ)と増尾(岡田将生/アウディの四駆)が乗る「クルマ」や、祐一の祖父や母親、バスやタクシーの運転手など「端役の配役」といった細部に至るまでの強い「こだわり」は、ヒシヒシと伝わってきた。
祐一と光代(深津絵里)の逃避行がドラマチックに続くロードムービーじゃないところが、この映画の生命線では。日常では心の最深部に沈殿している人それぞれの本性が、事件によって激しく揺さぶられ、湧き上がってくる。2人の移動を止めて、じっくりと描かれた人間の弱さ、醜さ、優しさ、強さ……そういった本性の有り様は、見ごたえがあった。
満点じゃないのは、この映画が『告白』よりはずっと秀でているけれど、小林政広監督の『春との旅』には至っていないと感じたから。2010年に封切られた日本映画は、強い信念を持った監督によって、じっくりと丹念に作られた作品が多い。そして、わが満島ひかりが、『川の底からこんにちは』に続き、またいい仕事をしている。実に喜ばしいことだ。
悲しくて美しいラストシーン、久石譲の音楽、福原美穂のエンディングテーマ『YOUR STORY』の素晴らしさについては、もう何も言うことなし。
おすすめ度★★★★☆
by kzofigo | 2011-03-06 15:33 | ムービービーム