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旅は道連れ、弱さ泣け

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老人の名は忠男。北の海でニシン漁師として荒削りに生きてきた。孫娘の名は春。北海道・増毛(ましけ)の町で小学校の給食係として働いていたが廃校になり職を失う。東京に出て仕事を探そうと春は思い立つが、身体が不自由な忠男はひとりでは生きていけない。忠男は、将来のある若い春をいつまでも束縛するわけにはいかない、疎遠となっていた親類縁者たちに今後の世話を頼もうと考える。寂れた海辺の家をあとに、忠男と春は旅に出る…。

原作・脚本・監督は小林政広。これまでにカンヌ国際映画祭への4度の出品や『愛の予感』で第60回ロカルノ国際映画祭金豹賞(グランプリ)を含む4賞を受賞するなど世界的に注目されている。でも、『春との旅』は「キネマ旬報」や「日本アカデミー賞」、「映画芸術」などではカスリもしなかった。

第65回毎日映画コンクールで「2010年・日本映画優秀賞」と「スポニチグランプリ新人賞」(徳永えり)をダブル受賞し、日本映画ペンクラブ選定の「日本映画部門2010年度ベスト5」で第3位に選定されただけだ。小林政広監督は、北野武や塚本晋也以上に、海外での評価は高いが日本では過小評価される異端なのかもしれない。

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       (C) 2010『春との旅』フィルムパートナーズ / ラテルナ / モンキータウンプロダクション

この映画では、基本的に順撮り、ワンシーン・ワンカットの長回しのなかに、ゴダールを思わせる実験的なカット割りを織り込みながらの、小林監督の綿密で繊細、しかも骨格のしっかりしたフィルムメイクに、真実“人間を描いた”かつての日本の名画を観る思い。厳しい言葉の裏に隠された、人の本物の優しさが、物語が進むにつれてじわじわと心に沁みてくる。

監督の熱の入った演出に応える演技陣も充実。脚本に惚れ込んだ名優・仲代達也が渾身の演技で元漁師・忠男を演じ切っている。孫娘・春を演じるのは若手演技派女優として注目の徳永えり。19歳の役の彼女(実年齢22歳)が、小林監督が施す独特の“役づくり”の成果で、映画のなかで女優として成長していく姿が眩しい。

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       (C) 2010『春との旅』フィルムパートナーズ / ラテルナ / モンキータウンプロダクション

この2人を囲んで達者なキャストが競演。忠男の兄夫婦に大滝秀治と菅井きん、弟の内縁の妻に田中裕子、その隣人に小林薫、気丈な独り身の姉に淡島千景、弟夫婦に柄本明と美保純、春の父に香川照之、その後妻に戸田菜穂という信じられないほど豪華な配役。柄本明が舞台の見せ場のような、彼らしい芝居を映画で見せてくれるのがうれしい。

全編を雄大にして優しさにあふれたテーマ曲で満たすのは、かつて故・高田渡とともに音楽シーンに大きな足跡を残した佐久間順平。本当に久々に、ひとりの監督がこの1本に懸けた情熱に感激し、映画音楽らしいサウンドトラックを聴き、役者の本格的な演技を堪能し、それらすべてが盛りあわされた、邦画らしい日本映画を観た。

できれば心は2人と道連れに、祖父と孫娘のたどる旅を見つめてほしい。

by kzofigo | 2011-03-04 12:55 | ムービービーム