ゴールデンスランバー

【あらすじ】~注意!ネタバレしまくり千代子
仙台市内で宅配便のドライバーを生業に暮らす青柳雅春(堺雅人)は、ごく平凡な30歳の独身男性。非凡な経歴があるとすれば、2年前、配達先で強盗事件に遭遇し、犯人を唯一の技である「大外刈り」で撃退したところ、被害者がアイドルタレント凛香(貫地谷しほり)だったがために、ワイドショーに取り上げられて時の人になったことくらいである。とはいえ、長年つきあっていた恋人の晴子(竹内結子)からは「このまま一緒にいても『よくできました』止まりな気がするんだよね」と別れを切り出されるような普通の男である。
野党初の首相となった金田が仙台で凱旋パレードを行なうその日、青柳は大学を卒業して以来会っていなかった同級生の森田森吾(吉岡秀隆)から呼び出され、「お前、オズワルドにされるぞ」「逃げろ。とにかく逃げて、生きろ」と忠告される。突如、爆発音がしたかと思うと、警察官たちが、2人が乗っている停車中の車に駆け寄り躊躇なく発砲する。青柳は、反射的に地面を蹴り、仙台の街へと逃げ込んでいく。その背後で聞こえてくる2発目の爆発音。それは、森田が乗っている車から鳴り響くものだった。
金田首相は、爆弾を仕掛けられたラジコンヘリによって暗殺された。世間では、青柳が暗殺現場近くにいたという目撃情報や、爆弾に使われたラジコンのヘリコプターを青柳が専門店で購入する姿を防犯カメラで捉えた映像などが公開され、青柳は首相暗殺犯に仕立て上げられていく。しかし、どれも身に覚えがない。青柳は、自分の知らないところで、いつの間にか大きな力が働いていたことを悟っていく。
6年前に青柳に別れを告げた晴子はその後、樋口伸幸(大森南朋)と結婚し、一人娘の七美を授かった。テレビで青柳に関する報道を見た晴子は驚き、大学時代のサークル仲間の森田に連絡するが電話は繋がらない。続いて後輩のカズこと小野一夫(劇団ひとり)に連絡すると、知らない女性の声が「樋口さんですか?」と応対する。カズの恋人というその女性(ソニン)によって病院に呼び出されると、そこには顔中に包帯を巻かれたカズが眠っていた。カズは青柳を呼び出すエサにされてしまい、その際に青柳は警察に捕えられてしまった。
連行される車のなかで、警察庁の佐々木一太郎(香川照之)は青柳に自首しろと迫るが、青柳は頑なに「やってません!」と拒絶する。佐々木が青柳に手錠をかけようとしたまさにそのとき、黒いパーカーを着た小柄な男が運転する車が激突! 車内がパニックになる一瞬の隙を突いて、青柳は脱出に成功する。黒いパーカーの男は、指名手配中の連続殺人犯、キルオ(濱田岳)。キルオの狙いは、以前自分を殺そうとした警察庁の小鳩沢(永島敏行)を殺すことだったが、失敗してしまう。
青柳は宅配ドライバー仲間の岩崎(渋川清彦)に、自分を荷物として市外に運び出してもらおうとするが、失敗。キルオが得た情報から、ある病院に潜んでいる青柳の偽者を捕まえようとするが、それも罠だった。もう逃げられないのだろうか…、どん詰まりの青柳の前に現れたのは、自称「裏稼業の人間」保土ヶ谷(柄本明)。保土ヶ谷のアイデアにより青柳は、マスコミを利用した、一か八かの大勝負に出る。その影では保土ヶ谷と晴子、カズたちによるもうひとつの計画が進んでいた。警察の罠に嵌った青柳は、佐々木らに追いつめられ万事休す。ついに投降の時を迎えた、まさにそのとき…。
出演は、ほかにベンガル(花火職人)、相武紗季(井ノ原小梅)、伊東四朗(青柳の父)、木内みどり(青柳の母)、石丸謙二郎、でんでん、木下隆行(TKO)、竜雷太など、多種多彩。
人気作家・伊坂幸太郎のベストセラー小説「ゴールデンスランバー」(新潮社刊)を、『アヒルと鴨のコインロッカー』『フィッシュストーリー』に続き中村義洋監督が映画化。巨乳な陰謀に巻き込まれ、首相暗殺の濡れ衣を着せられた宅配ドライバーの必死の逃避行を見どころ豊かに描いたサスペンス。主演は、中村監督の『ジェネラル・ルージュの凱旋』でも共演している堺雅人と竹内結子。

まず、30歳の主人公たちの学生時代の思い出の曲が、なんで『Golden Slumbers』なのかが解せない。アルバム『Abbey Road』が世に出た1969年なんて、彼らが生まれる10年も前じゃないか。原作者・伊坂幸太郎にしても1971年生まれだ。う~ん、伊坂君に問い詰めたい。
劇中に流れる『Golden Slumbers』はポールが歌うオリジナルにしてほしかったのだが、斉藤和義なら許す。斉藤和義によるエンディングテーマ『幸福な朝食 退屈な夕食』(新録)は素晴らしい! この映画一番の収穫であるとさえ言ってしまおう。
いやいや。これは「逃亡映画」の秀作だ。
ハリウッド映画なら、マット・デイモンあたりが、自分を陥れた首謀者に制裁を加えるため、警察の目を掻い潜り反撃に出て(「ジェイソン・ボーン」シリーズ参観)、スリルとサスペンスとカタルシスに満ちた展開が待っているだろう。しかし、この映画は中村義洋・林民夫・鈴木謙一によるシナリオが、事件の謎を紐解いていくように書かれていない。

なぜ事件が起きたのか? 陰で謀(たばか)る人物は誰なのか? …そんな【謎】はまったく解明されないまま映画はエンディングを迎える。主人公が置かれた状況について、きちんとした謎解きは行なわれないので(原作自体そういう作品らしい)、ミステリー的なものを期待すると肩透かしを食らうだろう。
この映画は、堺雅人が主演のひとりであること、昔の仲間が物語の鍵を握ること、時間軸が前後することなどから、内田けんじ脚本・監督の『アフタースクール』に似ている。しかし、制作に2年を費やし完璧に構成されていた内田シナリオに比べ、この映画のシナリオはご都合主義だと言わざるを得ない。
原作がそうだと言うなら、脚本に3人も名前が連なっているんだから、脚色の段階で緻密なストーリー展開を再構築してほしかった。しかし…青柳が逃げる、あー、今度は捕まる、捕まった、あ、また逃げた、ほっ…という具合に、青柳に完全に感情移入して、訳が分からぬまま逃げている理不尽な緊迫感を共有できる楽しみは捨てがたい。

映画の展開は主人公に都合よくすすんでいくし、青柳の逃亡を助ける仲間や助っ人たちの計画にはどこか「抜けた」ところがある。その(わざとだと思うが)「詰めの甘さ」を忘れさせてくれるのが、キャステングの妙と、その役者にとって新境地ともいえる熱演の数々だ。
竹内結子は学生時代・青柳とつきあってる期間・現在を外見に頼らず演じ分けているのがエライなあと思った。堺雅人は逃走の走る姿が絵になる。さすが劇団出身。アクション俳優への進出もアリでは? 貫地谷しほりが相変わらず巧い。今回はアイドルタレントっぽさのエッセンスを撒き散らしている。彼女はずっと「A's」(大リーグ、オークランド・アスレチックス)のベースボール・キャップをかぶっている。なぜじゃ?

本来ならエキセントリックにブチ切れて青柳を追い詰めたい香川照之はあえて抑えた演技をしている。これは明らかに、終始無言で街中でも所構わずショットガンをぶっ放す永島敏行のモンスターぶりを際立たせるためだろう。キャラの強烈さでいえば、永島敏行はこの映画でナンバーワンだ。青柳の宅配ドライバー仲間の岩崎役・渋川清彦もひょんなげなロックンローラー技で笑わせてくれる。

(あれはどう見ても初代)カローラが重要な大道具として登場する。ここでも首をかしげてしまう。初代カローラなんて僕らにとっても【旧車】だ。30歳の青柳たちにとっては【旧旧車】になるんじゃないか。初代ホンダシティや初代ホンダシビックぐらいなら分からないでもないが。
キルオ(濱田岳)が青柳救出において快刀乱麻の活躍を見せる。しかし、彼は通り魔殺人犯なのだ。人殺しをヒーロー視してしまいそうになる自分に、オットットッとブレーキをかけてしまう。であるからして、連続殺人犯ではなく、ねずみ小僧みたいな怪盗にしてほしかったなあと思うのである。濱田岳自身の演技は実に小気味いい。
父親役の伊東四朗が見せる、ワイドショーの小うるさいインタビュアーのいなし方は胸がすく。
カメラに向かってあるメッセージを吐く場面は、
邦画史上に残る名シーン
として語り継がれるだろう。
★★★★☆

by kzofigo | 2010-08-24 21:26 | ムービービーム
























