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映画『真幸くあらば』     


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タイトルが読めなくて困った。「まっこう くあばら?」。
まじないの「くあばら」?それは「くわばら」だ。
「ごめんください。どなたですか?桑原和子でございます」の?それは桑原和男。

調べた。

タイトルは、「まさきく、あらば」と読む。
「真幸く(まさきく)」は、「無事に。つつがなく」の意味。

『万葉集』に収められた有間皇子の歌、
「磐代の 浜松が枝を 引き結び 真幸くあらば また還り見む」から取られている。
「真幸くあらば」とは、「もし(神に祈願して)叶えられたら」の意味。

主演のひとりが尾野真千子だが、彼女は、『萌の朱雀』といい、『殯の森』といい、
この映画といい、タイトルが読めない作品を選んで出演しているとしか思えない。

製作は、北野武や竹中直人、行定勲など、これまで多くの才能を見いだしてきた、
何かと物議を醸すプロデューサー・奥山和由。
彼の抜擢により、森山直太朗の楽曲の作詞をほとんど共作している詩人、
御徒町凧(おかちまち・かいと)が初監督を務めている。

J-WAVEの「オーマイレディオ」だったと思うが、森山直太朗がナヴィゲイターのとき、
ビートたけしに対する高田文夫的な立場で御徒町凧が番組に参戦していたよしみというのが、
この映画を観た理由であると、自分のなかで、もっぱらの噂だ。

衝動的に殺人を犯した孤独な死刑囚・淳(久保田将至)と、
その被害者の婚約者だった薫(尾野真千子)とのユニークな恋愛映画。
ディープ・スロートな岡山弁で言うと、“ひょんなげな”恋愛映画だ。


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【あらすじ】

空き巣に入った家で、昼下がりの情事にいそしんでいたカップルを殺めた南木野淳。一審で死刑を宣告された淳は、控訴を自ら取り下げ死刑囚となる。拘置所に身柄が置かれた彼のもとを、クリスチャンの川原薫が訪れる。薫は淳に殺された男の婚約者だった。淳の裁判を見続けてきた薫は、彼の養母となることで、死刑が確定したあとも面会を続けようとする。

幼い時から愛情に恵まれなかった淳は、その場凌ぎの生き方しかできず、女を知らなかった。フィアンセに裏切られた薫は、いまではそんな過去を乗り越え、結婚生活を送ってはいるが、夫との背中越しの会話が示すように、声と顔が徳永英明と瓜二つの夫は薫の気持ちを見ようとはしない。

接見を重ねるほどに、薫は婚約者の不実を暴きそれを裁いた淳に惹かれていく。いっぽう、愛を知らずに育った淳も薫によって生きる喜びを知る。殺人を犯し、その罪を受け入れることを決めた死刑囚の男と、被害者の婚約者だった女が、拘置所の面会室のアクリル板越しに出会い、互いに求め合う。

2人は、薫が差し入れる聖書に小さな文字で書き込みをする「秘密の通信」によって、内に秘めていたものすべてを告白し、言葉はやがて淳が描く薫の絵となる。機は熟し、満月の輝く夜を迎える…。


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主演は、ファッションモデルであり、『妖怪奇談』『コードネームSPARE』『最後の早慶戦』ドラマ「BLOODY MONDAY」などに出演し、これが映画初主演の久保田将至。そして、『萌の朱雀』『EUREKA ユリイカ』『リアリズムの宿』『ナイスの森 The First Contact』『ヤーチャイカ』『クライマーズ・ハイ』『殯(もがり)の森』『トロッコ』NHK土曜ドラマ「外事警察」の尾野真千子。

尾野真千子が巧い。クリスチャンゆえに罪も罪人も憎めない。それどころか、婚約者には裏切られ、夫とのあいだには断絶さえ感じ、唯一心を許せるのが淳なのだ。しかし、彼には触れることもできず、その命の期限は確実に近づいている。淳を愛してしまう薫の覚悟と葛藤と純潔を、薫になり切って表わす芝居はみごとだ。

いっぽう、淳の気持ちを大げさな台詞や所作に託さず、細かいところまで再現された独房での生活、看守や、『KAMIKAZE TAXI』や『AIKI』で主人公に必殺の一撃となるようなひと言をさりげなく吐くミッキー・カーチスなどほかの死刑囚とのやりとりに、モノローグを重ねる手法も功を奏している。

とにかく静かな映画だ。固定カメラで構図に凝った映像に主人公2人の独白によって、物語は淡々とすすんでいく。それでも飽きさせないのは、映像のクオリティの高さだろう。撮影班がいい仕事をしている。ピアノ1台で過不足なく添えられる音楽も素晴らしい。作家が撮ると奇をてらった表現が映画を台無しにしがちだが、詩人が撮るとこうも静謐な映画になるのかと唸らせる、実に詩的な佳作だと思う。

ただし、ラスト15分までは。


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気持ちと時間は同じ。しかし、場所を隔てて結ばれる情交は無理がある。思い切りブルーの色調に振って、2人の情欲の昂揚に統一感を出そうとしているのは分かる。フィルムをブルーにするのなら、いっそブルーフィルムばりの激しいクライマックスにしてもよかったのでは?もちろん理想は直接の「まぐわい」だ。トリックは蒔田光治か伊坂幸太郎あたりにお願いして。

この濡れ場とエンディングだけに森山直太朗の歌が挿入されるのにも違和感を感じた。とくにエンディングテーマの陽気な曲調は、せっかく繊細に積み上げてきた映画をぶち壊している。どうせぶち壊すなら、ラスト15分の濡れ場そのものでやってほしかった。

あと、ミッキー・カーチスの処刑日、彼は淳の顔を見ようとするが、結局、見えずに行ってしまう。あそこは、看守が気を利かせてでも、お互い無言でいいから、彼と淳とを対面させてやりたかった。また、死刑囚の独房にボールペンはあり得ないだろう。残念な演出だった。

★★★★☆

by kzofigo | 2010-08-16 13:06 | ムービービーム