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これは紀行文ではない     

◎ブックレビュー◎


インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日   中村安希/著


米国の大学在学中に「9・11」を体験した著者は、「『悪の枢軸』 と名指しされた国がいかに凶暴で貧しいか」をくり返す米国メディアの報道に対して、「本当か? どんな国にも生活を営む普通の暮らしがあるはずだ」と疑問を抱く。それを自分で確かめるため、26歳の時に、2年かけてユーラシア・アフリカ大陸47か国をめぐる旅に出る。これはその旅先で出会った人々の「小さな声」を集めたノンフィクションだ。

登場する人々を描く筆致は、力強く、簡潔だ。対象を客観的に描くのではなく、対象に対する自分の感情の動きをドキュメントし続ける。その骨太の描写力と独特の方法によって、欧米側からしか伝えられない「都合のいい世界」をあらわにする。


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それにしても、著者の現地社会への足の踏み入れ具合は尋常ではない。イスラム圏では戒律に従い2度の結婚と2度の離婚を経験する。アフリカ大陸では、列車やバス、船、トラックなど移動の乗り物はみごとに壊れ、そのたびに著者は荒野へ放り出され、地元の乗客たちと同じ時を過ごす。

ウガンダで孤児院を訪ね、タンザニアで宝石堀に加わり、ザンビアでガソリンの密輸に加担し、ジンバブエで盗難に遭い、裁判所に出廷し、さらに襲撃事件に巻き込まれる。ガーナでは、アフリカの高所得者層と関わるいっぽうで、貧乏なラスタマン(ジャマイカ文化かぶれ)やリベリア難民との奇妙なキャンプ生活をともにする。


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そして、アフリカ人の視点からアフリカの世界をとらえ始める。途上国や先進国の枠に収まり切らない、人間社会の深い闇と確かな希望を発見していく。読者は、著者が出会った「小さな声」を手がかりに、イスラム圏やアフリカ諸国の実態を、驚きとともに知ることになるだろう。

リアルな世界観を身に付けるうえで、確実な手がかりとなる力作。第7回開高健ノンフィクション賞受賞。これまでの日本人の感性とはひと味違った才能による、新たなドキュメンタリーの誕生だ。

◆集英社 1575円

by kzofigo | 2009-12-28 18:40 | ミュージック・ブック