【THIS IS IT】を観て来た
クリちゃんまたはオッサンことCrystal KayやAIといった
若いブラコン・ルーツ系ミュージシャンをはじめ、音楽評論家やFM番組DJなど、
テレビからラジオから、絶賛の嵐。
NGを出すのがまるでタブーみたいな状況の【THIS IS IT】だ。
ホントにそうなのか確かめて来た。
結論から言うと、画質・音質とも高クオリティのステージ・リハーサル記録映像を中心に、
バックアップ・アーティストやクルーのインタビューや特殊映像のメイキングなどを交えて、
編集作業のチカラで何とかスクリーンにかけられるレベルに持っていった即席映画だった。
感動して打ち震えることも、ましてや涙することもなかった。
だけど、大いに驚かされたよ。
MJが辿ったキャリアのどこで彼に出会ったか。結局、それが大きいよね。
僕は「I Want You Back」や「ABC」、「I'll Be There」、「Ben」の頃からだけど、
「Thriller」や「BAD」、「Black or White」、「You Are Not Alone」からの人たちとは
おのずと受ける印象が違って当然だよ。
言い換えれば、カリスマか、そうではないか…
どこかで「MJがスタッフと対等に接している姿に感動した」っていう感想を聞いたけど、
とんでもない、ミュージシャンやダンサーはもちろん、各セクションのチーフたちも、
タメ口をきいているふうを見せつつ、MJに気を使いまくっているじゃないか。
まさにMJは王様だ。
もうひとつ、僕(あるいは僕ら)は1980年代前半、エンターティナーMJのたぶん一番いいときを、
おびただしい数のMTVで日常的に見ていたんだよね。
だから、ここが肝心なんだけど、この映画は初めて観るのに、すでに観慣れてるんだよ。
ひとつだけ80年代と違ってて、しかも驚くべきことは、
撮影された時点でMJが僕と同じ50歳だったっていうことだ。
50歳のMJに、あれほどアグレッシブなパフォーマンスができるとは、
正直言って、思いもしなかったよ。
なかでも、「Beat It」「Billie Jean」「Black or White」での充実ぶりには目を見張った。
リハだから、もちろん流しているんだけど、出番や仕事を終えたダンサーやスタッフの
煽りに乗って、本気を出したときのMJはabsolutely awesomeだ。
それから、ヴォーカルが太く豊かになったような気がする。
これなら、じっくりと聴かせる曲を、より説得力をもって歌えると思ったのに…
しかし、リハーサルなのに、よくあれだけの映像を撮っていたものだと感心したよ。
それでも映画1本を作るには尺が足りないし、アングルがワンパターンなんで、ちょっと飽きてくる。
リハの撮影はMJが指示したそうなんだけど、たとえばバックバンドやバックコーラスに
CDと寸分違わぬ音を求める完璧主義者であることをはじめ、
これは彼の「用意周到ぶり」を描いた映画と言ってもいいかもしれないね。
MJは1987年のソロとして初の日本公演のときから、この映画と同じく、
ステージングのすべてに関して自らディレクションを行なっていたよ。
ただし、オリジナルであることをよしとするタイプのミュージシャンは、
MJのバックバンドには不向きだろう。
とりあえずCDと同じ演奏を要求されるんだから。
StingがThe Policeの解散後に集めたジャズメンたちは
MJからオファーがあっても断るってことだ。
ちなみに、Stingのそのバンド誕生を記録した映画 『Bring On The Night』 は、
リハーサルと本番とオフィシャルとプライベートが有機的に絡んだ出色の出来栄えだよ。
Bring On The Night(1985年公開)
ソロ・デビュー直前直後のスティングに密着したドキュメンタリー・タッチの映像作品。ファースト・ソロ・アルバムの『ブルー・タートルの夢』の製作過程を捉えた映像が中心となっており、スティングのプライベート・ライフにカメラが迫る。パリでのライヴの模様とそのリハーサル映像、息子の出産に立ち会う様子など貴重な映像が盛りだくさん。
さてMJだ。曲とリンクしてバックのスクリーンに映写する映像のメイキングが凄い。
ネタバレになるんで詳しくは言わないけど、「Thriller」なんかたまげたさ。
バックダンサーやスタッフたちが、このライヴに参加する感想を語るシーンはよかったな。
彼らがいかにMJを尊敬し愛しているか…その想いが伝わってきた。
それにしてもMJの体型はなぜ崩れないんだ。オレンジのパンツと
一番最後のステージで着てるルーズなレイヤード・ファッションはカッコよかったが、
トレードマーク?の靴と白いソックスとそれを見せる短めの丈は、やっぱりダサい。
バックダンサーたちが何気に着てる本場のB-boy系ファッションには目が行ったよ。
ジャージの上にさらにジャージっていう着こなしもあった。
B-boy系は鍛え上げられた、たくましいガタイに似合うって思ったさ。
「キャッツ方式」とでも言えばいいのかな、同じ場所で50公演というのは、
MJの体調面を考えても正しいやり方だったと思う。
ツアーだと、MJに帯同して百数十人のクルーが移動しなくちゃだめだもんね。
MJのライヴは、MJが主役を務める大仕掛けのミュージカルであり、
音楽に乗って熱狂するアトラクションであり、息つくヒマを与えないテーマパーク。
誤解を恐れずに言えば、MJのライヴはディズニーランドそのものだ。
そこに行けば、いつでも同じエンターテインメントを享受でき興奮することができる。
であるからこそ、このリハで作られた映画を観ていて、
100%パワーを出し切った本番ライヴがどれほどのものかを観たくてしょうがなくなったよ。
CDを数倍上回る音楽と予定調和を逸脱しまくったステージを
ファンに見せつけてほしかったぜ、MJ。
ロンドンやLAでは、客は総立ちでMJと一緒に歌い叫びながら観たんだろうな。
MOVIX倉敷の最終回レイトショーの客はどんな風に観たんだろう。
観終わって喝采が沸き起こったんだろうか。
今後、選び抜かれた映像と才能ある映像作家の手による
MJのドキュメンタリー・ムーヴィーが製作されることを願うよ。
即席ではなく足跡映画。
観終わった誰もがスタンディング・オベーションをせずにはいられないようなやつをね。
MJはそれに値するアーティストだ。
50歳のMJが、このライヴをやろうとしていたことには、まったく敬意を表するよ。
ライヴを実現する前に、何で死んじゃったんだよ…
素直にそう思った。
◆
OTは学生時代、東海林太郎を聴いて涙するような自称・国粋主義者だったのに、
ビリー・オーシャンに出会い、洋楽の、とくに80年代ポップスのファンになった。
ライオネル・リッチー、スティクス、デニス・デ・ヤング、ホール&オーツ、フィル・コリンズ…
もちろんMJもお気に入りアーティストのひとりだった。
同じ1958年生まれのOTとMJが同じ年にこの世を去った。
2009年は悲しみとともに深く胸に刻まれる年になりそうだ。
Rest in peace, OT&MJ
by kzofigo | 2009-11-27 21:35 | ガッツ・エンタテインメント