ノーカントリー

「ノーカントリー」
昨年のアカデミー賞で8部門にノミネートされ、作品賞・監督賞・脚色賞・助演男優賞など主要4部門を受賞した話題作。日本でも2008年度のキネマ旬報外国語映画ベストテン第1位を獲得した。2005年に発表されたコーマック・マッカーシーの小説『血と暴力の国』(原題:No Country for Old Men)を、監督・製作・編集も務めたコーエン兄弟が映画製作に当たって脚色している。
80年代のアメリカ・テキサス。メキシコ国境に近い砂漠でハンティング中に、偶然、死体の山に出くわしたルウェリン・モス(ジョシュ・ブローリン)は、大量のヘロインと現金200万ドルが残されているのを見つける。危険を承知で大金を奪ったモスに、すぐさま追っ手がかかる。必死の逃亡を図るモスを確実に追い詰めて行くのは非情の殺し屋アントン・シガー(ハビエル・バルデム)。そしてもうひとり、厄介な事件に巻き込まれたモスを救うべく老保安官エド・トム・ベル(トミー・リー・ジョーンズ)が追跡を始めた…。
何といっても、ハビエル・バルデム演じる異常な殺し屋シガーが凄すぎる。映画史上、こんなに几帳面で無感情な殺し屋というのは前例がないのでは。おかっぱ頭に喪服のような黒い服。人命を何とも思わず、目的のためなら無関係な者も躊躇なく殺す。シガーが使う高圧ボンベ付きの家畜用スタンガンという武器はクリーンかつ抜群の威力を持ち、鍵穴を破壊するだけでなく人間の頭も吹き飛ばす。また、彼は銃弾を受けても腕を骨折しても、うめき声ひとつ出さない。その姿は殺人をプログラムされたターミネーターのように冷血で一徹だ。
コーエン兄弟はこれまでにも多くの作品で、人間の欲望が暴力犯罪のなかでスパークする凄惨で血生臭いスリラー映画を作っている。その頂点のひとつが、1996年製作の『ファーゴ』だ。『ノーカントリー』も、バッグのなかの大金や殺し屋、事件を追う保安官など、『ファーゴ』に通じあうものがある。そのいっぽうで、『ファーゴ』とこの映画には、大きな相違点がある。『ファーゴ』では健全な世界というものがまず前提としてあり、そこに理不尽な暴力が異物として入り込んでいた。だが、『ノーカントリー』の世界は、もっとはるかに悲観的なのだ。世界は狂っている。そこで正気を保とうとする人間は、保安官のエドに象徴されるように、世界から疎外された「よそ者」になってしまう。
劇中で何度か行なわれるコイントスに象徴されるように、人生もまた二者択一の連続。大金を奪うという道を選んだ以上、モスはその行為に責任を持たなければならない。そしてシガーという死の遣いからは何とか逃げられるが、別のところでつまずく。モスが最初に見たたくさんの死体と同じ運命をたどるのも、彼の選択の結果。他人の死によってもたらされた不当な利益は、結局自分の命であがなわなければならないのだ。
そんな因果応報を、研ぎ澄まされた映像でスタイリッシュに見せる技術はより洗練され、この作品はコーエン兄弟の新境地となっただけでなく、新しいタイプのクライム・ムービー誕生につながった。暴力的なのに抗いがたい魅力がある逃亡・追跡劇。コーエン兄弟独特の体温の低い笑いが彩りを添えている。
おすすめ度★★★★★
by kzofigo | 2009-11-16 17:47 | ムービービーム























