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Movie Groovy 3     


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「七夜待」(ななよまち)
 1997年、初の35mm作品・初の商業作品として制作した『萌の朱雀(もえのすざく)』で、カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を史上最年少で受賞、2007年には『殯(もがり)の森』で同映画祭グランプリを受賞した河瀨直美監督の最新作。
 30歳の彩子(長谷川京子)が、人生のリセットを求めてタイに降り立ち、とある村で七夜を過ごし、タイの文化や人々に心と体で触れあい癒されて、新しい自分に出会う物語らしい。タイの古式マッサージと出家僧の姿に惹かれた河瀨監督が、タイのマッサージをきっかけに、徳を積むといったことを学んでいく日本人女性を描きたかったそうだ。
 ハッキリ言って、これを商業作品として流通させることが間違っている。映画製作会社はお蔵入りさせるべきだった。それほどの駄作だ。監督の意図するものが何も伝わってこない。映像が美しいわけでもない。長谷川京子は好きでも嫌いでもないが、彼女のファンにとっての、肌の露出とすっぴんが拝める長編グラビアであることに、やっと価値が見いだせる程度だ。
 台本がなく、その日やることをメモで渡す方法を取り、俳優がそのときの感情に任せて素直に演じてもらったそうだが、それでは素人を使ってきた従来の作品と同じではないか。長谷川京子は一応プロだが、即興的な状況下で観客の心を揺さぶるような演技が出来るほどの力量は残念ながら持ち合わせていない。
 北野武監督も同じ方法を取ることで知られているが、彼の場合は実力を備えた俳優を起用し、俳優にその場で指示を出せる即興的な演出能力にも長けている。プロの俳優を演出できるだけのディレクション能力があるとは思えない河瀨監督が同じことをやっても、映画は失速するだけだ。
 タイのシーンの合間に挟み込まれる、長谷川京子が肌を(少しだけ)あらわにし村上淳と絡むベッドシーンも、全裸が見られるわけでもないし、なぜこのシーンが必要なのかが分からない。映画の魅力のかけらもないような観客を失望させるだけのフィクションを作っていないで、あなたは奈良へ帰って素人の素の演技に助けられたドキュメンタリーを撮っていたほうがいいと河瀨直美監督には言いたい。

☆☆☆☆☆




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「大阪ハムレット」
 いつも笑顔を絶やさない房子(松坂慶子)の家に、死んだ夫(間寛平)の弟と称する男(岸部一徳)が転がり込んできた。そんななか、大学生に間違われる老けた風貌の中学生の長男・政司は女子大生の由加(加藤夏希)と恋に落ちる。ヤンキー二男・行雄は学校の先生から「久保君はハムレットやなぁ」と言われ、辞書を片手にシェイクスピアの「ハムレット」を熟読、そして自分の出生に疑問を持つ。将来の夢は「女の子になること」と宣言した三男・宏基は、学校でからかわれ、思いのまま生きる辛さを味わう。
 森下裕美の同名コミックを実写映画化した家族ドラマ。大阪の下町に暮らす肝っ玉母さんと個性豊かな3人の息子たちの人間模様が、笑いと涙を交えながら、さりげなく語られる。この「さりげなく」がクセ者で、大阪で暮らした経験がある者にとって、この映画は物足りない。大阪でくり広げられる日常はもっと濃厚だ。
 物足りない原因は、監督が東京出身という点にあると思う。人間味の味付けに照れがあって薄いのだ。やっぱり、大阪の庶民を撮るには、体に「大阪」が染みこんでいる監督じゃないとだめなんじゃないかな。大森一樹や井筒和幸(←奈良だけど)、阪本順治がメガフォンを取ったら、まったく違った、もっとコテコテの大阪映画になっていただろう。
 松坂慶子と岸部一徳といえばカンヌを制した小栗康平監督『死の棘』で夫婦役を演じた2人。あれは文芸映画の秀作だったけど、この映画ではそのコンビが大阪弁のコメディで息の合った演技を見せているのが面白い。細かいところでは、ヤンキーで中1の二男・行雄(森田直幸)がやらかすケンカが、効果音や段取りに頼らず、非常にリアルでよかった。また、大阪育ちの本上まなみの大阪弁を聞けたのが収穫だ。
  なお、この映画で岸部一徳が第21回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」の特別賞を受賞している。大阪弁で演技する岸部一徳は無敵である。

★★★☆☆




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「アフタースクール」
 1回観て、大泉洋と内田けんじ監督によるおちゃらけコメンタリー映像を観て、すべてのネタを知ってからもう1度観た。それくらい面白かった。
 劇場用長編デビュー作『運命じゃない人』が、2005年カンヌ国際映画祭・批評家週間の4部門を受賞した内田けんじ監督。彼の新作『アフタースクール』は、脚本に対して強いこだわりを持っている内田監督が、およそ2年をかけて練りに練った、大どんでん返しミステリー・エンターテイメントだ。
 母校に勤める中学校教師の神野(大泉洋)は、中学の同級生・島崎と名乗る男(佐々木蔵之介)に、神野の親友で同じく中学の同級生の木村(堺雅人)を一緒に探してほしいと依頼される。否応なしに木村探しを手伝う事態になった神野は、島崎とともに木村の行方を追ううちに、彼自身もまったく知らなかった木村の素性を知っていくことになる…。
 ナゾがナゾ呼ぶ殺人事件~♪・・・じゃなくて実によくできたミステリーだ。とにかく細部までケタ違いに練り込まれた脚本による話の展開が尋常ではない。さまざまな場面や事柄に伏線が張りめぐらされ、しかも無駄がない。どのシーンのどの行動にも意味が隠されているような塩梅なので、相当に目を凝らしてディテールまで注意を払いながら観ることが必要だ。それでも、まさかあの時のあの行動がこんな結果に結びついていたなんてという心地よい驚きに、もう一度観たくなること間違いなし。
 見方を変えることで立場が逆転するみごとなトリックに「騙される快感」をこんなに味わえる映画はそうないと思う。それはまるで、難解なジグソーパズルのピ-スを埋めていく作業に似た快感だ。主役3人のほかにも、中学時代のマドンナ役の常盤貴子、事件の鍵を握る謎の女・田畑智子もワケありの演技で楽しませてくれる。
 この映画では、最初と最後に、「告白の場」として中学校の下駄箱がフィーチャーされているが、僕の中学時代は(高校もそうだったような…)「自転車置き場」と決まっていた。それにはワケがあって、体育館以外は土足OKで下駄箱がなかったからだ。でも、下駄箱より自転車置き場のほうが目撃率が低くて安心だと思うけどなあ。
 しかし、いくらジグソーパズルの面白さだからといって、DVDのパッケージデザインはひど過ぎると思うぞ。

★★★★★

by kzofigo | 2009-08-12 11:57 | ムービービーム