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Movie Groovy 2     


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「イキガミ」
 原作は、設定が星新一の『生活維持省』に酷似していると問題になっている間瀬元朗のコミック『イキガミ』。この盗作問題は、『生活維持省』が収録された『ボッコちゃん』(←懐かしい!)と『イキガミ』を読み比べて、各人が答えを出すしかないだろう。

 さて、映画『イキガミ』だ。限りなく現代の日本に近い架空の国家では、「国家繁栄維持法」により国民の生命の価値を高めることが社会の生産性を向上させると信じられている。そこでは1000人に1人の確率で選ばれた18歳から24歳の若者の生命が自動的に奪われる。政府から発行された死亡予告証、通称「逝紙(イキガミ)」を受け取った者は24時間後に確実に死亡する…。

 「イキガミ」を手渡す配達人・藤本(松田翔太)を主人公に据え、「イキガミ」を受け取った当事者(金井勇太・山田孝之・佐野和真)とその家族(成海璃子・風吹ジュン・塩見三省)や友人(塚本高史)の人間模様だけでなく、藤本が抱える苦悩や葛藤といった心情も描かれていて、「生と死」を切実に考えさせられるリアルさに富んでいる。

 ひと組のエピソードを描くのではなく、配達人・藤本をストーリーテラーに、何人もの人間ドラマを無駄なくテンポよく描いていく瀧本智行監督(←『犯人に告ぐ』の人)の手腕に拍手である。男性ファッション誌から抜け出てきたようなスタイリッシュな松田翔太も難役をよくこなし健闘しているが、やはり山田孝之の上手さが傑出している。彼と成海璃子との兄妹をめぐってくり広げられるエピソードは見もの。

 「国家繁栄維持法」を統括する厚生保険省の参事官は『リアル鬼ごっこ』の国王を想起させる役どころだが、なんと同じベテラン俳優が演じている。こちらの演技のほうが数段いい。藤本の上司役で仕事に徹した冷静な課長を笹野高史が演じているが、いつものゆるキャラではなく、渋い。『犯人に告ぐ』でも豊川悦司の右腕的刑事を好演していたが、瀧本監督は彼を巧みに使っている。

 国家に管理された社会は『未来世紀ブラジル』を思い出し、4年の命しか与えられていないレプリカントたちが創造主に復讐する『ブレードランナー』にも通じるものを感じた。命の残り時間を病気や戦争で限定させて「生きる」ことの尊さに改めて気づかせるのは映画の常套手段だが、この作品はドラマがテーマを上回っている点で素晴らしいと思う。

 アミューズが昔に打った広告のキャッチフレーズをテーマにした映画を【バンパイヤもの以外で】観てみたいものだ…「生命が永遠なら、今日何をするだろう。」(『ベルリン天使の詩』がそうだね) 

★★★★★




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「Mr.ブルックス ~完璧なる殺人鬼~」
 オレゴン州ポートランドの大物実業家、アール・ブルックス(ケヴィン・コスナー)。美しい妻との関係も良好、公私ともに誰もがうらやむ人生を送っていた。しかし、彼には誰にも言えない悩みがあった。それは「殺人依存症」であること。何年も理性で衝動を抑えてきたブルックスだが、ある晩、彼はもう1人の人格であるマーシャル(ウィリアム・ハート)の誘惑に耐え切れず、カップルの部屋に忍び込み2人を銃殺してしまう。だが、カーテンが開いていたため、向かいのアパートに住む盗撮趣味の青年ミスター・スミス(デイン・クック)に、犯行現場を撮影されてしまう…。

 とんでもない連続殺人鬼の登場だ。最高にキれる頭脳を駆使し、完全犯罪を何度も成し遂げてきた。いっぽうで、社会的には名誉と成功を手に入れ、妻と大学生の娘を何よりも愛している「マイホームパパ殺人鬼」なのだ。殺人に対する罪悪感は微塵もなく、ただ家族を失うことだけが怖くて、「殺人依存症」を克服したいと願っている設定が新しい。

 脚本が秀逸。主人公に犯罪をそそのかす別人格マーシャルの存在が大当たり。ブルックスとマーシャルが交わす(他人には見えない聞こえない)会話が洒脱。ブルックスが依存症を満たすためのターゲットを選び犯行に及ぶまでの描写も念入りだ。また、登場人物のキャラが立っている。ブルックスとマーシャル、スミス以外にも、ブルックスを追跡する刑事トレイシー役のデミ・ムーア、夫人エマ役のマージ・ヘルゲンバーガーも精彩を放っている。

 デミ・ムーアのこの映画、この役への思い入れは相当なもので、彼女の登場シーンは彼女が主演の別の映画をもう1本観ているのかと錯覚するほどだ。だからこそ、ブルックスと直接絡むシーンが少ないのが惜しい。マージ・ヘルゲンバーガーも『CSI:科学捜査班』の知的なイメージとは違うゴージャスな一面を見せている。

 最近のレンタルDVDにしては特典が非常に充実してる。監督・脚本家たちより、俳優のほうが大物の映画なのだが、スタッフ・インタビューで、監督に至っては、ケヴィンに脚本をほめられた日に高級レストランのワインとステーキで祝ったことを激白していて、苦笑。しかし、本編はフィルム・ノワールの佇まいを湛えているのに、それをまったく反映していない、まるでジム・キャリー主演作のようなパッケージ・デザインが無残!

 この映画で残念なのは、ケヴィン・コスナーがウィリアム・ハートほどセクシーでないことだ。ケヴィンは殺人をやり遂げた恍惚感を表現しようと頑張っているのだが、無理が見える。だから、作品全体にセクシーさが足りない。僕ならウィリアム・ハートをブルックス役に使いたい。その場合のマーシャル役は…ケヴィン・スペイシー、ウィレム・デフォー、ジョン・マルコヴィッチ…なんだ、こっちのほうが人材豊富じゃないか(笑)。

 その別人格のウィリアム・ハート主演『白いドレスの女』(キャスリーン・ターナーは元気だろうか?)、その『白いドレスの女』にチョイ役で出ていたミッキー・ローク主演『エンゼル・ハート』のような、ため息が出るほど芳醇でセクシーなクライム・ムービーは、もう望むべくもないのだろうか。

 ケヴィン自身がインタビューでほのめかしているが、ラスト前のどんでん返しから考えて、続編は100%アリだろう。

★★★★☆




◎二重人格を描いたおすすめ作品

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「男たちのかいた絵」
 冷酷非情なもうひとりの自分の人格に引きずられて暴力団事務所に入ってしまった温厚な二重人格の青年の姿を描いた作品。筒井康隆の同名連作小説の映画化に情熱を燃やしていた故・神代辰巳監督の遺志を継いで『ハネムーンは無人島』の伊藤秀裕が映画化。出演は、豊川悦司、高橋恵子、内藤剛志、筒井康隆、永島敏行、安岡力也、伊佐山ひろ子、哀川翔、永島暎子ほか。1996年作品。

by kzofigo | 2009-08-11 00:56 | ムービービーム