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DVD『最後の初恋』ほかレビュー     

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(あらすじ)身勝手な夫や思春期の娘との関係を考え直すため、ノースカロライナ州のローダンテという海辺の小さな街にある友人の宿を手伝いにきたエイドリアン(ダイアン・レイン)だが、大きな嵐が来るという予報を聞く。そこに宿の唯一の客となるドクター・ポール(リチャード・ギア)が到着するが、彼もまた心に問題を抱えていた。

舞台はノースカロライナ州の観光地アウターバンクス。防波堤のような細長い島々が130キロも続く海の中道。美しいロケーションの波打ち際に建つ、おとぎ話に出てくるような佇まいの小さなホテル。そこで親友の女性オーナーに留守番を頼まれたワケありの美人の主婦が、たったひとりの宿泊客であるワケありのハンサムな外科医師をもてなす。

嵐が来て、2人はホテルに閉じ込められ、互いの身の上話を始める。LPレコードで再生されるロマンチックな音楽とともに、メランコリーとセンチメンタルが増幅していく。このシチュエーションで恋に落ちるなというほうが無理だ。

『きみに読む物語』でもお馴染みのベストセラー作家ニコラス・スパークスの小説が原作のこの映画が素晴らしいのは、2人が本気で愛しあい、影響を与えあうことで、自分の本来の姿に気づき、自分を悩ませている問題に対して、取るべき態度や行動を見い出すことだ。そこから、映画はラヴロマンスを超えてヒューマンドラマへと深まっていくのだが、ポールの苦悩に絡んで登場するロコの男スコット・グレン(相変わらず渋い!)が語る妻への愛がしみじみと胸に染みた。

熟年恋愛の状況描写に手抜かりはなく、ラヴシーンもほどよく美しい。しかし、この映画を観ているとどうしても連想してしまう『マディソン郡の橋』がそうだったような、切なさが胸に伝わってこない。『コットンクラブ』『運命の女』などで共演歴のあるリチャード・ギアとダイアン・レイン。2人の恋があまりにハマリ過ぎて、ベタ過ぎて、リアリティに欠けるからだろう。要するに、「ハーレクイン・ロマンス度」の高い恋愛映画なのだ。

でも、ダイアン・レインがスクリーンに本格的に戻ってきた作品として、個人的には非常にうれしかった。あと、エイドリアンという役名が原作のとおりなら、これは変えてほしかった。ポールが「エイドリアン!」と叫ぶと、あの映画のテーマ曲が流れてきそうになるのを押さえるのに困ったからだ。
R-40(筆者指定)。おすすめ度★★★☆☆



【 関 連 作 品 】

◎リチャード・ギア&ダイアン・レイン共演作品

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(あらすじ)ニューヨークに強風が吹き荒れた日、郊外に住む専業主婦のコニー(ダイアン・レイン)は、フランス人のブック・ディーラー、ポール(オリヴィエ・マルティネス)と出会う。彼の誘惑に抗し、自制心を働かせていたコニーだったが、3度目に彼のアパートを訪れた日、ついに肉体関係を持ってしまう。

ダイアン・レインの女優としてのピークは、コッポラの傑作青春映画『ランブルフィッシュ』で、当時人気随一だったマット・ディロンを袖にして、まだ無名だったニコラス・ケイジとくっつく中学生役だった。ウィレム・デフォーを世に送り出した『ストリート・オブ・ファイヤー』のロックスター役で、少しの輝きを放ちはしたけどね。
 
ここ数年、端役に甘んじていたダイアンへ、主演女優カムバックのエールを送り続けていたのだが、この映画で復活の手ごたえを感じた。エイドリアン・ライン監督さまさまだ。

この監督は、女優の性的魅力と、男女間の負の感情を引き出すことにかけて、光るものを持っている。『ナインハーフ』でのキム・ベイシンガーしかり、『危険な情事』でのグレン・クローズ(でさえ)しかり。『ナインハーフ』でミッキー・ロークに撮影中の体形の維持を強いたように、きれいに撮ることを信念としている監督なので、人間の内面を描くとき表層的になりがちなのに反して、男女の恋慕・いさかい・悲劇・別れなどを描くことにかけては天賦の才がある。

この映画も、コニー(ダイアン・レイン)が良心の呵責に苛まれながらも、ポールにどうしようもなく溺れていく、その二律背反をダイアンが感情ゆたかに演じている、そこが最大の見どころ。コニーの夫役リチャード・ギアは、ちょっとサスペンスが入った『Shall We dance?』の予告編的な役どころを無難にこなしている。「スノードーム」が重要な小物として扱われている映画って初めて観た。

星ひとつマイナスは、『恋に落ちて』で、デ・ニーロに会いたくてワンダーシビックを駆って飛び出したメリル・ストリープが、列車が近づく踏み切りで逡巡する、あの名シーンを彷彿とさせるようなラストシーンで、右か左か、どっちに行くのかを、チラッとでもほのめかして終わってほしかったからだ。個人的にはこの映画、『スノードーム殺人事件』と呼んでいる。★★★★☆



◎ニコラス・スパークスのデビュー小説が原作

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(あらすじ)療養生活を送る老婦人(ジーナ・ローランズ)のもとに、足繁く通う老人(ジェームズ・ガーナー)が、物語を読み聞かせる。それは、1940年の夏、南部の小さな町で始まる物語。休暇を過ごしに都会からやって来た17歳の令嬢・アリー(レイチェル・マクアダムス)は、地元の製材所で働く青年・ノア(ライアン・ゴズリング)と出逢い、恋に落ちる。だが、娘の将来を案じる両親に交際を阻まれ、都会へ連れ戻されてしまう。ノアは365日毎日手紙を書くが、一通の返信もないまま、やがて第2次世界大戦が始まる…。

死ぬほどいい目を見たいなら、死ぬほど痛い目に遭わなければならない・・・・身をもって知った恋愛の教訓だ。アリーの奔放。階級差。戦争による空白。親のエゴ。そして、認知症。障害が大きければ大きいほど、思いが成就した瞬間の喜びには得がたいものがあるのだと思う。

アリーの行動を身勝手、無軌道と、とがめる向きもあるけど、それなら『卒業』のベンとエレンはどうなるのだろう? 大人たちの古い価値観に抗う若者のモラルからの逸脱に、映画ファンは喝采を送ったのでは? そういう意味では、この映画の現在を描いた場面は、見たいけど、ありえない『続・卒業』の架空版になっているのかも知れない。

映画のクライマックスは、結婚を目前に控えて自分のもとへ戻って来たアリーにノアが「きみは、どうしたいんだ?」と詰問するシーンだろう。そしてアリーが決断を下す。アリーにしたってギリギリのところで自分の運命に落とし前をつけているのだ。それがあるからこそ、あの美しい湖水のように、痛みを引き受けた感情を心にたっぷりと湛えているからこそ、追憶の淵でさまようアリーが愛しく、ノアと互いを思いやる関係が感動的なのだと思う。

『ロミオとジュリエット』に代表される若者たちのラヴストーリーと『黄昏』を思い起こさせる老カップルの慕情の物語。2つのロマンスが織りなす、とてもぜいたくな、大人の恋愛映画。それから、映像を観ているだけで幸福感と切なさに満たされる映画。ニック・カサヴェテスは、人間そのものにフォーカスした父親とは違い、相当な耽美派だ。ノアがボートにアリーを乗せ、水鳥たちが群れる湖へと漕ぎ出す場面は、物語より映像の力で泣かされた。★★★★★

by kzofigo | 2009-06-17 22:09 | ムービービーム