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「我、食に本気なり」 ねじめ正一     

「アーメン、ソーメン、ヒヤソーメン」。
食と一緒に子ども時代の自分を発見できるぞ。


直木賞作家で詩人のねじめ正一の食にまつわるエッセイ。
「食」に関するウンチク本ではあーりません。
昭和23年生まれで中央線の高円寺で育った著者が、
その舌を巻くほどの記憶力によって、克明に再現された36の「食」の話。

「誰よりも君を愛す」(アイスクリーム)、「なんたってフライがエライ!」(カキ)といった
コミカルなサブタイトルとともに記された品書きを見ていくと、これが庶民的な食べ物ばかり。
さつま揚げ、ラーメン、すき焼き、うどん、みかん、柿の種、寒天、カレーライス、卵、油揚げ…。

だけど、いざそれらを食べる時、味や香りと一緒に、高円寺商店街の乾物屋だった
昭和30年代のねじめ一家やご近所さんや友人知人が次々と登場してくる。
食べ物と場面が一体化しているのだ。読み進むうちに、登場人物が固まってきて、
連載ものの短編小説を読んでいるような錯覚さえ覚えた。
職人気質の父親。孫に優しい祖母。なかでもつまらないことをきっかけに
著者とやりあってばかりいる関西出身のオクサンがケッサクだ。


「我、食に本気なり」 ねじめ正一     _b0137183_015164.jpg


ねじめ正一が書くものは、会話も含めて場面描写にすこぶる臨場感があるうえに、
文章自体にも滋味があり、自分にも思い当たる節がある「味噌汁かけごはん」や
突飛なメニューの「馬のたてがみ」には大笑いし、シュークリームに対する
並々ならぬ執着心にはふむふむと感心しながら、実に楽しく読める。

ぎりぎり「脱脂粉乳世代」である僕は、「牛乳VS脱脂粉乳」の様相を呈する「牛乳」と、
時代と場所を越えた決まり文句「アーメン、ソーメン、ヒヤソーメン」が出てくる
「そうめん」の章が、とくに楽しく読めた。

庶民の観察眼で、愛すべき人間たちの食べ物に関する悲喜こもごもを集めた、
愉快なエピソード集だ。気取らないけど品があるイラストを手がけた南伸坊との
ざっくばらんな対談も一興。コトコト煮込んでダシがよく利いたおでんの具のように
味わえる一冊。

この本は、高円寺、中央線沿線を中心とした話なんだけど、
「食」というのは地域色、時代性が大きく関与するものだから、
いろいろな人の「食に本気なり」を読んでみたいと思った。

ひとつシンパシーを感じる事実を知った。ねじめ正一も下戸だったのだ。

by kzofigo | 2009-04-05 23:10 | ミュージック・ブック