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この、とりとめのない時代に

『ラクガキ いっぷく』 中野 翠

辛口の健筆家・中野翠が『サンデー毎日』に連載のコラム「満月雑記帳」。
その2007年12月から2008年11月までの1年分より抜粋した100編あまりを収録。
「映画と本と巷の話」を中心に、鋭く愉快な眼差しが投げかけられた痛快なエッセー集だ。

連載から厳選されたオムニバス版なので、まず内容が濃い。
得意なジャンルである洋画や書籍から、芸能、政治経済、国際事情、凶悪事件、
はたまた浦和レッズや大相撲まで多岐にわたる世相を、
容赦ない筆致でズバッと斬っていく。

鋭く、みずみずしく、奇をてらわない文章には、
彼女の自由人としての強さと弱さが見え隠れしていて、実に楽しく読める。
中野翠の毒舌には嫌味が感じられないのだ。

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彼女の無駄な権威を身にまとわない存在感は、ほかの毒舌家にはない魅力である。
だから、暗澹たる気持ちにさせられる事件の合間に、彼女が「偏愛」する映画や落語、
歌舞伎の話が登場するとほっとする。それは、自己批判を怠っていないからだろう。
「あとがきをかねて 追悼・赤塚不二夫さん」に見られるように、
対象を自らの鏡としている姿勢が潔いのだ。

そして、今の日本にはびこる付和雷同的な風潮に対して「待った」をかけ、
「こういう見方もある」と違った価値観を示すことは貴重である。
そこに、本書の価値があると思う。

この1年は「破綻」の年だったと著者は回想する。
しかし、その「破綻」からも何か学ぶこともあるはず。
「ちょっと一服して出直そう」と世の中に向けて再出発を呼びかけ、
気分の上方修正を促す、クールでポジティブな一冊。
毒舌より「偏愛」の魅力に満ちた一冊だ。

僕には、中島らもが健在の頃、「明るい悩み相談室」を読みたくて
朝日新聞を購読していた時期があった。
中野翠の連載が目当てで『サンデー毎日』を買っている毒舌フェチが、

いてもいいし、
いてほしいと思う。

(セゾン・グループ広告のパクリ)

by kzofigo | 2009-02-04 22:47 | ミュージック・ブック