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G線上のメリー・クリスマス     

1986年の暮れに初めてニューヨークへ行った。
時は1ドル150円の円高に加えバブル経済が始まったところ。
まさに海外旅行にはうってつけの時代だった。

いちばん思い出に残っているのは、
ジャズの聖地「ブルー・ノート」で本場のプレーに触れたことだ。
出演はピアニスト、ケニー・バロンのカルテット。
レギュラー・プログラムで料金はたしか15ドル。

年明けの特別プログラムはハービー・ハンコックのコンボに、当時人気がうなぎのぼりの
ブランフォード・マルサリスがゲストで300ドル(もちろんディナー込み)。
15ドルがいかに安いかわかってもらえるだろう。


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演奏は素晴らしかった。
フロント奏者のテナー・サックスはよく歌い、ドラムは音数の多い独創的なリズムを刻み、
ベースは意欲的なフレージングでバンドのグルーヴをキープする。
伴奏にまわると本領を発揮するタイプのケニー・バロンは手練れのプレーで
コンボ全体をコントロールしていた。

ブレイクタイム、プレイヤーたちは楽屋に引っ込んだりせず、一杯やったり、
常連客と話し込んだり、思い思いに羽根を伸ばしていた。
階段の踊り場で一服していたケニー・バロンに僕は拙い英語で話しかけた。

「『ラウンド・ミッドナイト』は観ました?」
「ああ、観たよ」
「凄い映画でしたね」
すると彼は少しニヤッとして
「デックに会ったら伝えとくよ」
と言ってくれた。

「デック」とは『ラウンド・ミッドナイト』で主演したテナー・サックス奏者
デクスター・ゴードンのことだ。

気分をよくして席に戻ろうとしたら、毛皮を身にまとい体中からオーラを放った
美形の黒人男性が、目の前を通りすぎた。
僕は一緒に行っていた友人の肩をつかみ、小声で叫んだ。
「ジョージ・ベンソンだよ!」
彼は「客」としてブルー・ノートに遊びに来たのだ。


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残りの休憩時間は、ジョージ・ベンソンのサイン会のようになってしまった。
裏にケニー・バロン・カルテットとジョージ・ベンソンのサインが入った店のメニューは、
いまでも大事な宝物だ。

後半のステージが始まると、客の期待を察したケニー・バロンが
ジョージ・ベンソンに一声かけた。
ジョージはケニーの申し出を快く引き受け、
カ ルテットをバックに得意のスキャットで1曲歌ってくれた。

ケニー・バロンのひと言とジョージ・ベンソンの飛び入りステージは、
僕にとって最高のクリスマス・プレゼントになった。

by kzofigo | 2008-12-24 15:11 | トラベリング・ボーイ